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御伽の国のコトカ5


「……そうだったんだね」


 コトカは切なく声を落とした。

 国家管理局の地下、ギアーズの拠点にコトカ、うずら、たけなわの三名が集っていた。丸いテーブルを囲ってそれぞれ腰かけ、卓上にはお菓子や紅茶がところ狭しと並んでいる。

 本当はお茶会なんてしている暇はないのだけど、闌が言って聞かなかったのだ。うずらもしぶしぶ、「先日の報告も兼ねて」と提案を通したのだった。


 残念ながら、味方にできそうだと思っていたペレストロイカという男は既にいなかった。おそらく……どこかで命を落としてしまったのだろう。


「ええ。やっぱり、そのギグルという女以外に敵はいないと思います」


「ならうずらちゃん、彼女をなんとかすれば所長とも話し合える?」


「……どうでしょう」


 うずらはコトカのまっすぐな瞳から目を逸らした。その純朴さが、うずらにちくちくと刺さった。彼女はきっと、ギグルもЯも殺さないで勝とうとしている。けど、そんなのはうちにとっても相手にとっても無理な話。


 ――――どうしてコトカさんをギアーズに入れたんだっけ。


 魔力の高さはその人自身の個性の強さ。自我に揺らぐ青年期の少女が著しく高い数値を見せるから、ギアーズは一癖も二癖もある少女たちが集まる。個性というのはいうなれば「意志」で、叶えたい願いだとか生への執着だとかで「個」の濃度を上げていく。


 しかし、魔法のエネルギー源ともなるメモラジックの採取と虚の駆除を両立させるにはただでさえ数の少ないギアーズにこれ以上ない負担をかけてしまうことになり、最悪命を落とす。

だから、もともと空っぽな存在、つまり虚で虚を対抗させたらどうかとうずらが造られたが、それだとメモラジックが採取できず失敗に終わった。

 そういうわけで、魔力指数が極端に低くかつ人間であるという「空っぽ人間」を選んだのだった。


この雪平コトカという少女は多くの記憶を失っているため個というのがまるでなかった。仕方がない、自分がどんな人間だったのかそもそもわからないからだ。

 魔力の低い存在が敵――ウロにどんな影響を与えるか実験してみたかった。これが彼女とギアーズとの出会いだ。


 ……でも、結果はよく分からなかった。実験と言うからには、コトカが死んでしまったら困る。そのためうずらが彼女を守る必要があり、そのせいで仲間たちが犠牲になっていった。空っぽが空っぽの怪物に立ち向かったところで初めから勝算なんてなかったのだ。


 なのに、どうして……


 「彼女ならできる気がする」と思ってしまうのだろう。


 コトカの存在が、国家管理局と葦原研究所の対立を解消してくれる。それもいい方向で。

 根拠のない期待が募るのは、なぜなんだろう。


「うずらちゃん、あのね。私だって、意見を通すためなら人を傷つける必要があるかもしれないっていうのはわかってはいるの」


「……それは意外です」


「だけど、やってみたい。お互いが手を取り合える方法を見つけたい。だから、私がまずは研究所に行って、そのギグルっていう子に話してみる」


「闌さんはどう思いますか?」


「潰すときに呼んでくれ、ボクは甘味さえあればジューブン」


 闌が大きなチョコレートマフィンをがぶりと頬張った。チョコレートの生地にブロック型のチョコレートをこれでもかというほど乗せて焼かれた香ばしいマフィン。大きなお皿山盛りに積まれていて、闌がひとつまたひとつと山を崩していく。そして薔薇の香りがする紅茶を呷った。


 なんだか夢の中にいるような気分だ。

 目覚め、つまり終焉が近づいてきている気がする。うずらはふっと息を吐いて、二人の救世主に微笑んだ。


「では、よろしくお願いしますね。みんなで頑張りましょう」


 その言葉を聞いたコトカの表情は、彼女の中にある空虚が埋まりつつあるように感じた。

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