御伽の国のコトカ
「さて、これからどうしましょうかね」とカンラクは言った。
「パルメザン……いえ、 幸木闌さんを呼んだ方がいいんじゃないでしょうか」
コトカはここで初めてパルメザンの本名を知った。うずらが言い直した通り、仮の名前なんていらない気がしてくる。私たちは本当の意味で同志になったと、コトカは微かに感じた。
「そうね。どこにいるかしら」
「私が探しておきます。魔法でチョチョイですから! ……その後に作戦会議といたしましょう」
「作戦……」
そういえば、何も考えていなかった。ただ、何をやるべきかなどこの場にいる全員が同様のことを確信していた。
「ラボに直接説得するしかないと思います。……悲しいけど、あちらも戦力は縮みかけている気がします」
「私もコトカさんの意見に同意です。今残ってるのは確か……ペレストロイカ?」
ゴーダが救ったあの人だ、とコトカは思った。
ペレストロイカはコアを使って黄泉にやってきて、虚に襲われかけた男だ。飄々としていて、何を考えているかわからないあの彼。しかしゴーダが突如その身代わりとなり命を落としてしまったのだ。その全てを見ていたが、ゴーダが救った理由も、ペレストロイカの感情もわからない。
彼はあれから何か変わっただろうか。もし自分が彼と同じ立場だったらきっと敵を敵だと認識できなくなってしまうかもしれない。そうだといいけれど、人の感情とはもっと複雑な構造をしているとコトカはすでに学習していた。
「偵察が必要でしょうか?」
「そうねえ……。コトカちゃんはどう思う?」
コトカはなるべく武力では制圧したくなかった。できるなら話し合いで解決したい。それができないから今争いあっているのはわかるけれど。
「……力で言うことを聞かせたら、勝った側と負けた側が生まれてしまいます。正直、それは嫌だなって……。なるべく仲良く、したい、です……」
喋るうちにだんだんと自信をなくし尻すぼみに意見を述べてしまった。しかしカンラクとうずらはコトカを笑うことなく、むしろ「でしょうね」といったような反応を示していた。
「コトカさんならそう言うと思ってましたよ、そうしましょう」
「そうね。あなたがリーダーなんだから」
「りー、だー……?」
コトカは胸の内が暖かくなって、なぜかくすぐったかった。顔が綻ぶ隙などもちろんなく、コトカは決心した。
「直接、お話をします。魔法のことを全て話して、理解してもらいます。そのためにはまず外堀から……」
「ペレストロイカを味方につけるのね」
「はい。……きっとわかってもらえるはず。なのでまずは、彼の動向をこっそりと探して、一人のときを狙って交渉します」
「随分しっかりしてきたじゃない」
「リーダーですから」
わかっていないのはコトカの方だった。
彼女は、ペレストロイカが既に故人となっていることなど知らないのだから。