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濫觴9


 ここで一つ、疑問点が挙がった。


「……あの、カンラクさん。お母さんはラボに所属していたんですよね?」


「ええ。もちろん私もね」


「なら、どうして私たちはラボと争っているんでしょうか」


 実はずっと前から気にはなっていたのだ、聞く機会がなかっただけで。カンラクの話が間違っていなければ、魔法はもともと科学の組織から生まれたということになる。その技術も科学である可能性が浮上してくるはず。だとしたら、魔法と科学の争いは単なる内輪揉めなのでは?


 カンラクはコトカからそんな疑問が出ると思っていなかったのか、きょとんとしたあと真剣な眼差しになった。


「ラボ、というよりもЯと争っているの。彼はね、自分が昇進して所長になったのをいいことに、自分と意見の異なる研究員をクビにしていった。その結果生まれたのがЯという名の宗教ね」


 正規の手続きで所長になったのかすらわからない、と彼女は付け加えた。


「私も国家管理局のためにラボを辞めたからはっきりとはわからないの。でも明らかなのは、Яは魔法が大嫌いということ。元所長がご存命だったら詳しく聞けたのだけど……」


 コトカは胸騒ぎがした。嵐の森のように激しくざわざわと。

 ……やらなきゃいけないことがある、気がする。魔法がきっかけでラボがバラバラになって、今もなお多くの人が命を失っている。親友が、仲間が、敵さえも。

 その原因を作ったのは、紛れもなく私の母親だ。


「……カンラクさん。私、生きる意味が見つかりました」


「え? な、何?」


「私たちの争いを終わらせるんです。魔法も、科学も、全てが存在し、その存在を誰もが知るようになること。今のままじゃ、駄目だと思うんです」


「コトカちゃん……」


 決断しなければならない。過去を取り返すのではなく、未来に投資することを。母親が発端ならば、その(けり)を娘である私がつけなくてどうする。


「お願いします、どうか協力してください。カンラクさんも、うずらちゃんも」


 コトカは深々と頭を下げた。彼女たちだけじゃない、残り一人のギアーズでもあるパルメザンも説得するつもりだ。


「……うずらはどうしたい?」


「私っ!? ……乗るしかないですよ」


「あなたの存在意義が、なくなるのよ?」


 コトカははっとした。確かにそうだ。彼女は戦うために造られた少女、戦争が終わったら、一体うずらは、


「……それくらい自分で見つけます」


 うずらが初めて、カンラクに反抗するような表情を見せる。それなのにカンラクは嬉しそうに微笑み、二人の頭にそっと手を置いた。


「今までよく頑張りました」


 うずらは涙が溢れそうになった。そんな機能などないから流れるわけがないのだけど、人の温もりが全身にじんわりと広がっていくような感覚がした。

 対してコトカは、不安が残っていた。きっと一筋縄じゃいかない、簡単だったらとっくに解決している争いだ。それを小娘ごときが浄化できるものであるかどうか。

 それでも覚悟だけはあった。たとえ自分の命を犠牲にすることになっても。

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