It's me.7
弾幕はだんだんと失速していった。豪雨から小雨になっていく様子がなんだか奇妙だ。コトカは恐る恐るうずらと局長室の様子を窺った。弾の数こそ多いが個々の威力は弱く調整されているようで、壁と床には風穴一つ空いていなかった。
煙は晴れ、オレンジ色の光は次第に消えていく。目が闇に慣れず、うずらの姿がぼんやりと見える。彼女は床に両手をつき項垂れていた。
感情を全て出し切ったのだろう。怒りや憎しみも先程の光のように萎んでいった。
「うずらちゃん……」
ようやくうずらをはっきりと視認できたコトカは彼女に歩み寄る。
「ははは……。涙すら流せないんですよ、私は……。人じゃ、ないから」
彼女は笑っていた。眉は下がり、口角は歪んでいる。笑顔よりも空虚な泣き顔が色濃く映っていた。その表情が、コトカの胸に鋭く刺さる。
自分でも無意識だった。いつの間にかコトカはうずらを抱きしめていた。彼女と同じように床に膝をつき、同じ目線で、同じ気持ちで。
デジャヴ、だった。
こんな風に報われない境遇を嘆き劣等感に苛まれていたのは、私だ。
「あなたもからっぽだったんだね……。でももう、大丈夫」
空虚であることは、恥じることではない。
「うずらちゃんも私も、これから先からっぽのままかもしれない。だけどからっぽじゃいけないなんてこと、ないんじゃないかな」
コトカは困ったように笑った。うずらに対してはもちろん、自分自身にも言い聞かせていた。
やっと気づいたのだ。
今まで、からっぽでいる自分を罪人であるかのように恥じてきた。しかし、その罪を非難した者は今までにいただろうか。彼女を特異な目で見る者やからかう者はいた。だが、謗る者は誰一人も。
「お互い、自分で自分に呪いをかけてたんだよ。誰かを羨んで、自分がどんなに満たされているかにも気づかないで」
うずらは何も言葉を返さなかった。
「私はうずらちゃんが羨ましかったよ。国家管理局の一員として私たちをまとめてくれている。私と変わらないくらいの年齢の子がこんなにもしっかりしてるなんて、『それに比べて私は』、って」
「…………私は。……私はあなたが羨ましかった」
「うん。わかってるよ」
コトカはうずらの頭をそっと撫でた。髪の一本すら人間と変わらないのに、彼女は人ではない。うずらは孤独で寂しかっただろう、たった一人で。
「……ごめんなさい」
一瞬何の謝罪かわからなかったが、先程の攻撃のことだろうと察した。
うずらもあんな攻撃は間違っていると最初からわかっていたのだろう。コトカが右目を差し出してうずらが完全体になれたとしても、決して人間にはなれないのだから。無意味な八つ当たりでしかなかったのだ。攻撃をやめたのは、彼女がその事実を理性で受け止めたから。
「ううん。うずらちゃんの気持ちが聞けてよかった」
お互いがお互いの目を見据えた。相手の瞳に映る自分はどこか晴れやかで、笑っていて、諦めがついたように見えた。