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It's me.5

 カンラクたちからは、魔法をたくさん使うことと虚を倒すことを命じられた。

 研究員たちが寝食を犠牲にしてきて得たうずらだ、彼女は敗北を知らなかった。弱った虚を調査用に生け捕りにして研究所にも貢献してきたつもりだ。

 周りの大人たちは優しく、右目の空洞を覆うハート形の眼帯までも愛してくれているような気がした。

 うずらは虚討伐要員のエースとして活躍し国家管理局が雇った「ギアーズ」とやらよりもずっと戦闘力に秀でており、やがてギアーズは解雇されることとなる。それが誇らしかった。

 

 されどやはり仲間は欲しいので、自分と同じ対虚専用の人型兵器の量産を望んだ。そうすればこの国をもっと良くできるのだとカンラクに教わった。


「ギアーズはね、とても弱い子たちなのよ。傷を負えば死んでしまうし、あなたのように修理することもできないの」


 ギアーズを「弱い」と言うカンラクはなぜかどこか愛しそうにしていた。まるで手のかかる我が子に呆れながらも、心から愛しているような。

 薄暗い局長室でそれを聞いたうずらは、心に黒くて重い何かが沈むような感覚がした。自分の方が褒められているのに、なぜ羨ましいと思ってしまうのだろう……。


 その嫉妬心をもバネにうずらは戦い続けた。次第に自らの体一つ傷つけずに攻撃することができるようになり、空中に魔法陣を作りその陣から出る弾幕のみで虚を壊した。


 戦闘が終わり、鼻歌交じりに局長室へ向かう。いつも通りカンラクに褒めてもらおうと思ったのだが、今日のカンラクの様子はいつもと違っていた。そして彼女のすぐ傍に、御中がいたのだ。


「水鶏子、あたしは院長だよ? こんな呼び出しで易々来ると思ってたわけ?」


「実際来たじゃない。大事なことなの、あなたが造ったうずらについてよ」

 

「あの……私のことで何か?」


 うずらが来たことを知ったカンラクはばつが悪そうに視線を落としていた。そして後ろめたそうに呟きだす。


「虚討伐をうずらだけにしていたら、メモラジックが回収できなくなったの。やっぱり、人間じゃないと駄目ね」


「……ギアーズを呼び戻さないと」


 それからのカンラクと御中の会話は頭に入ってこなかった。要は、自分ではどうやっても乗り越えられない壁にぶち当たったらのだ。

 自分は“生まない”。うずらでは肝心のメモラジックを生み出すことができない。国をもっと良くしてカンラクや御中たちの助けになりたかったのに、自分では力になれない。


 からっぽな虚で造った私もまた、からっぽだったのだ。


 その日から五味(いつみ)うずらと名乗るようにした。読み方こそ違えど、自分が無能な役立たずだと常に自覚しておくには充分だった。私は、ゴミだ。


 それでもカンラクたちはうずらを廃棄したり関わるのをやめたりしなかった。でもどこか人間と人形との見えない壁があるようで。それがわずが1ミリメートルの壁でもうずらには到底壊せない隔絶だった。

  

 人間が羨ましかった。すぐ故障してしまうくせに、簡単に死んでしまうくせに、カンラクたちから愛がもらえる。

 ギアーズたちはカンラクを不信がっているが、それは大きな間違いだ。彼女は国家管理局局長としてふさわしい、国民への愛と守る意志がある。一番カンラクの傍にいる自分だからこそそう言い切れるのだ。


 カンラクのことは何でも知っているし、カンラクもまたうずらのことを何でも知っている。そしてお互いがお互いを必要としている。そんな幻想を抱いていたのだ。

 ……なんて自分は愚かなんだろう。


 うずらが生まないことがきっかけで再結成されたギアーズは前とは違うメンバーになっていた。その中の一人が、どうやらすごく弱いらしい。


「試験的に魔力指数が異様に低い『からっぽ』な子を入れてみることにしたの。研究に必要な子だから、あなたが守ってあげてね。人間はすぐ死んでしまうの」


 うずらに背を向けながらカンラクが命じた。いつも薄暗い局長室だが、そのときはもっと暗く感じた。

 同じからっぽなのに、その子はカンラク直々に保護命令が下りる。羨ましい。

 自分とその子の違いは何か? ……人間だからだ。羨ましい。

 

 そんな中、うずらの失敗を糧に新しい人型兵器を製作する計画を小耳に挟んだ。

虚を材料にして、その中に人間の要素を入れればメモラジックを回収できる人形を造れるかもしれない、という。

 手だったり、足だったり。どこかが人間なら達成できるらしい。


――――……この右目に、誰かの目を入れたら、私も。

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