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It's me.

「だからあなたはエメンタールなんですよ」


 そう侮蔑したうずらの声は力強かった。しかし、コトカにはその理由がわからない。


「どういうこと……?」


 彼女の質問には答えず、うずらは大きなため息をついた。やれやれ、といった具合に。


「まあ、その理由はあとでお話ししますよ。国家管理局の局長室に行きましょう。面倒なのでテレポートします」


 何も理解できていないコトカに構わず、うずらは御伽を噛む。薄荷色の光が二人を包んで、コトカの視界はぼやけていく。

 鮮烈な光に耐え兼ねて思わず両目を瞑った。景色が白から黒に塗りつぶされ、まぶたの裏側はちらちらと点滅するように見えた。


 ふわり、と体が浮くような感覚が一瞬訪れまた地に足が着く。ゆっくりと目を開けると、そこは薄暗い景色が広がった。

 映画館のように暗い空間に、いくつものモニターが青く光っていた。モニターの前には一脚の椅子と机。局長の席であるということが一目でわかる、厳かな雰囲気を放っていた。


「局長は留守のようですね……どこ行っちゃったんだろう?」


 コトカの後ろには局長室の出入口。真っ黒な自動ドアの向こうがどんな光景なのかはわからない。

 施設のトップの部屋と聞くと校長室のようなものを想像していたが、コトカの思う局長室とはまったく異なっていた。


「ここがカンラク局長のお部屋です。どうです、広いでしょう?」


 うずらは鼻高々といった様子で胸を張る。心からカンラクを慕っているのだろう、コトカはそんな彼女がほんの少しだけ羨ましくもあった。慕ったり、慕われたり。そんな関係性を自分は持っているだろうか。


 彼女の言う通りこの部屋はとても広い。先程の研究所よりはもちろん規模は小さいが、局長だけが使うにはもてあましすぎてしまうだろうと誰もが思うほどの広さだ。例えるなら……戦闘アニメなんかにある司令室だ。コトカは乏しい記憶からなんとかその例えを引っ張り出した。


 ただ、ここは司令室というよりただの観測をする場所のように見えた。指令を送るマイクやボタンがなく、モニターは街を上空から見下ろしている映像ばかりだからだ。

 局の職員に命令したりするのは局長の部下が基本なのだろうとコトカは憶測した。


「メモラジックはここで保管しています。見ますか?」


 部屋の奥に進むと機械があった。チョコレートフォンデュのファウンテンと、ボウリングのボールリターンを掛け合わせたような機械だ。まるでプールにあるスライダーのようで、頂上から床までレールが螺旋を描いている。レールは床を突っ切って下の階まで伸びており、どこが終点なのか把握できない。

 そして、透きとおった球体がその螺旋の上に並んでいる。球体は直径20センチほどだろう、ボールと言っても差し支えないだろうが投げたり蹴ったりするにはあまりにも美しすぎた。


「これはメモラジックサーバーです。街の状況を察知するとここからメモラジックが供給されます」


 タイミングが良いのか、サーバーの稼働音が大きくなった。すると球体が一つ、床の向こうのレールに転がっていく。少しだけ進んだ行列のように他の球体も一歩前に進んだ。


「これが……メモラジック……?」


 コトカはその球体を小さく指差した。うずらの言っていることが本当ならば、これらはギアーズたちの記憶ということになる。

 美しいのが悲しかった。できるなら持ち主に返したいが、できたとしてもうずらがそれを止めるだろう。コトカは思わず水色の球体を探してしまった。


「そうですよ、メモラジックというのはmemoryとmagicの造語です。……見ますか?」


 うずらはレールから一つ球体を取り出した。薄暗い部屋にもかかわらず、それは夜光虫のように輝いている。淡いピンク色で、部屋のわずかな光を受け水面のように床を仄かに照らしていた。


「怒られない?」


「一つくらい大丈夫ですよ。いくらでもありますし。ほら」


 うずらが向いた方には小規模のコンテナが並んでいた。サーバーのすぐ隣にある。メモラジックがこんなにたくさん保管されているなんて。


――――もしかしたら、この中に私の記憶もある?

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