「だからあなたはエメンタールなんですよ」3
お待たせしてすみません。今後は更新頻度を上げていきます(作者)
真っ白な空間に黒は不気味に目立った。
そこにあったのは檻。独房のようなものではなく、動物などが収容されているかのようなそれだった。檻の柵は奇妙なほど銀色に輝き、錆ひとつない。
檻の中にいたのは、コトカも見知った、
…………虚だ。
いつも戦っているものよりも随分と小さい。わずか二、三メートルといったところ。それでも異質感、威圧感は拭えない。
虚たちは理性なく暴れ回ったり、檻を攻撃したりを繰り返していた。これはいつもと同じだった。
しかし、暴れる音はなく、檻もびくともしない。まるで結界が張られているかのようだった。もしかしたら、本当に張られているのかもしれない。
なぜ、ここに虚が?
狼狽を隠せないコトカを、五味は快く迎え入れた。
「ようこそ。ここは虚の研究室です」
「私たちはここで虚の生態や体の構造を調べています。敵のことは知っておく必要がありますからね」
五味含む他の研究員は平然としていた。彼らの日常がここにあるみたいだ。
コトカの背筋に冷たい空気が走った。自分たちの脅威がこんなに小さくなって、ここにいる人も悲鳴ひとつあげず虚を観察したり、弄ったりしている。モルモットか何かを扱うように。しかも、医療機関の地下室に。
それでは自分たちの戦いはなんだったのだろう。
「虚の中でも特に弱い個体を生け捕りにしているんです。あなたたちの戦いは無駄じゃないですよ。むしろ、ギアーズのために虚の情報を集めています」
五味はコトカの心境を読み解いたかのように弁解した。その瞳には真っ黒な怪物が映っている。
「……他の誰かには、ここを教えたの? パルメザンさんとか……」
「いいえ。あなただけです。あなたは知る必要があります」
「知りたくないよ、こんなの……」
コトカは俯いた。視界には潔白の床が広がる。足元はわずかに震えていた。
「駄目ですよ。雪平コトカは、はじまりなんです。
……もっと虚について教えましょう」
五味が言うにはこうだった。
虚はその名の通り空虚な存在。体だけあっても心がからっぽ。そのため、満たされた人間の心を求めてやって来る。特に、魔法を扱えるほどの強い心の持ち主を。
そしてその正体は、死んだ人間の魂。
「これはご存知ですよね。ここからが本題です」
虚を討伐するために、多くの少年少女が命を落とす。そんな彼らをギアーズと呼ぶ。
しかしギアーズも生身の人間。ギアーズを作った国家管理局もギアーズの死は望んでいない。
何か。
何かそれに代わるものを作らなければ。
独自で開発した兵器では虚に攻撃が出来なかった。彼らにはギアーズの攻撃しか効果がない。虚は満たされた心に弱いのだから。対抗できるのは無機物ではない、人間の意志以外ありえない。
ギアーズが持つコアとは、意志を具現化する装置だ。見た目は綺麗な宝石だが、それ一つで思い描く武器や戦闘衣装を創造できる。御伽で魔法を使う場合も、コアに呼応して現実となる。
意志の核がなければ虚に対抗できない。しかし人間の命をないがしろにもできない。
…………。
なら、虚で人間を作ってみたら……?
「機械や兵器は虚に対抗できないけれど、虚同士は干渉できる。それを利用したわけです」
虚の形を変えたり、死体に虚を吹き込んだり。あらゆる方法で対虚人型兵器を作ろうと奮闘した。
幾度の失敗を経て、完成したのが。
「それが私。五味うずらです」




