リコッタパンケーキにエゴのシロップを添えて10
はらわたが煮えくり返り、それをちゃぶ台のようにひっくり返したかのような怒りだった。そこに理性はない、極めて単調な怒り。
「何を言ってるの!? 頑張りましょうって……そんなのできるわけないじゃない!」
生まれて初めて、自分の負の感情を露わにした気がする。と言っても、記憶の中にある「生まれて初めて」だけれども。
だが記憶を失っている人間でも、現状が良くないということは嫌というほどわかっている。こんなの、間違っている。年端もいかぬ少女たちにやらせることではない。
「守られなくていい! 一番弱くても、実験台だとしても! 私は誰かが死ぬのを黙って見ることなんて、できないよ……」
真っ青な空と、監視塔の芝生。エメンタールは膝から崩れ落ち大粒の涙を流した。ボタボタと地面に落ちるが、それはきっと草の成長の足しにもならない。
「……だから、あなたはエメンタールなんですよ」
「へ……?」
五味うずらがエメンタールを冷たく見下ろした。まるで冬の雨のような視線だった。
「どういうこと……?」
「知りたいですか? しかしそれは、あなたにとって知りたくないことかもしれませんよ」
エメンタールは涙を止め、真っ青な空とうずらをしっかりと見た。そして、ただ一言だけ。
「知りたい」
「……わかりました。では、ラボへ行きましょう」
「えっ、ラ、ラボ?」
「我々の敵組織のことではありません。国家管理局が隠し持っている別の研究所を指します。真ラボとでも呼びましょうか」
二人は立ち上がり、塔の出口へと進んだ。
「あなたはこれから、メモラジックの真実を知ることになります」
・・・
静寂が響く。骨まで届きそうなほど冷たい風が吹いていた。
男はやっと口を開く。
「悪いね、こんなところに呼び出して。でも、ここじゃないとだめでさ」
「平気だよ。それでどうしたの? トロイカちゃん」
トロイカと呼ばれた彼――ペレストロイカは、虚とゴーダとの戦いを目の当たりにした。そこで、とある結論を出した。
彼らがいるのは、葦原研究所の庭。広大で静かなここでは二人の会話を聞くものはいない。
「ギグル。僕たちにとって魔法って、邪悪なものだよね?」
「もちろん。あんな科学まがいのもの、必要ない」
ペレストロイカは彼女の言葉を胸に刻み込んだ。刻み込もうとした。
だけど、自身の恩人――ゴーダの姿が忘れられなかった。凄惨だったから焼き付いたわけではない、敵でありながら自身を助けた彼女の意志とその姿が頭から離れないのだ。
だが、それが今いる組織を裏切る理由にはならない。
「僕さ、思ったんだ。……魔法と科学でも、仲良くやっていけるんじゃないかな、って……」
また、冷たい風が吹いた。