リコッタパンケーキにエゴのシロップを添えて9
突如として速度を上げた虚はやはりペレストロイカを目指していた。
その間に割って入るように、ゴーダが虚の前に立ちはだかる。
虚の堅固な腕が振りかぶられ、それをゴーダの爪が受け止める。蝶の鱗粉ように火の粉が舞った。
ペレストロイカは唖然としていた。
「な、なんで…」
「助けようとするのか、って? 決まってるじゃない」
虚がジリジリと燃え始めた。右の脚は炎に覆われ、炭のような黒い欠片が小さく落ちていく。
「……国を、国民を守るのが私たちの仕事だからよ」
「だからといって……!」
ア゛、と鈍い声がした。
____嘘……。
虚はとにかく速かった。だから至近距離で見ているペレストロイカとエメンタールでさえわからなかった。
虚の燃える右脚が、ゴーダの胸に刺さっていた。
「ゴーダさん……!」
エメンタールは驚愕に口を覆い、虚へと近づく。
「駄目ッ!」
「でも……!」
「……ア、ぐぅっ……! 痛い、痛い……! 駄目よ、来ちゃ……! 来るな!」
ゴーダから赤くて黒い何かが滴り落ちる。虚の炎は彼女の胸へ燃え移り、真っ黒な衣装が破れていく。
____どうせ死ぬなら、ね。
ゴーダは細い息のまま、御伽を食した。ひとつではない、手のひらからこぼれるほど。
「……あぁああぁぁああああ゛あぁあ!」
彼女は魔法で一時的に怪力となっていた。確実に敵を潰そうと。もう未練のないように、と。
力は何倍も増幅し、その振りかぶった左手からは黒い霧が纏われていた。その濃さから、魔法の強さは計り知れない。
ぐしゃり、と虚はあっけなく潰えた。黒い鎧が粉々になり、ゴーダを刺していた腕も瓦礫のように溢れて消えていく。
だからといって、彼女が目を覚ますはずがなく。
――――――!!!!!!congratulation!!!!!!――――――
「……え?」
空は晴れ、日常が瞬く間に戻っていく。なのに、ゴーダだけは違った。
皮膚が爛れ、胸に大きな穴が空いている。心臓を奪われたように。
真っ黒な死体がそこにあった。
「なんで……」
……なんで? 理由はとうにわかっている。ペレストロイカのせいだ。彼がいなければ、彼女がこんな目に遭うことはなかった。
なぜ、なぜ、ゴーダは彼に情けをかけたのか?
思わず、ペレストロイカを睨んでしまった。自分のなかによくない感情が湧き上がるのがわかった。だけど、彼に勝てるはずなどない。
「っ……ごめん」
苦い顔をしたあと、ペレストロイカは監視塔を去った。
「お疲れさまです、エメンタールさん。危なかったですねえ」
項垂れるエメンタールによく知る声が降りかかって来た。だが、顔を上げる気力もない。
「……ゴーダさんも逝ってしまいましたか。残念です」
「ギアーズは残り二人となってしまいました。でも、あと少しで任期は終わる。それまで頑張りましょう」
そのとき、エメンタールの中で何かが弾けた。