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リコッタパンケーキにエゴのシロップを添えて6


 虚はギチギチと醜い軋んだ音を鳴らしながら、監視塔へ向かう。その先にはゴーダとペレストロイカがいるというのに。


 ――――だめだ、私がなんとかしないといけないのに……!


 エメンタールが刃を刺した脚は不安定に動いていた。断面から毛のような黒い繊維をパラパラと落として歩く。まるで血が噴き出ているかのようで、黒い轍が長く伸びていく。


 巨大な蜘蛛は途端に動きが機敏になった。ずんぐりむっくりした見た目とは裏腹に、脚をせかせかと動かして進んでいった。エメンタールが食い止められる速さではない。


 ゴーダたちが気付かないわけなどなく、ぎょっとした顔で虚を見た。


「ご、ごめんなさい! い、いきなり動いたんです……!速くて止められなくて……!」


 慌てるエメンタールとは裏腹に、彼女は落ち着いていた。しかし衣服はボロボロで、黒く密着した生地が所々破れている。ゴーダの白い肌が露わになっていた。


 ペレストロイカもこの状況を察して、さすがに戦闘をやめた。

 彼も未知なる生物は怖いらしい。迫りくる虚を見て露骨に顔を歪め、そのあと苦笑した。塔から出ようと扉へ向かったがそれを開けることはできなかった。


「無駄よ」ゴーダが彼を瞥し鼻で笑った。


「ここは私たちのいる街とは違うの。わかりやすく言えば、異世界。自分の力じゃここからは出られないのよ」


 行きはよいよい、帰りは怖い。


「……じゃあ、一体どうすれば?」


「アレを倒すしかないわ。この世界――黄泉ヨミはこっちにやってきて、その住民が殺されればどこかへ行く。倒すといっても、あなたじゃ無理。私たちの武器以外は効かない」


「……」


 助けて、なんて言えるわけがない。ペレストロイカは動揺を隠そうと努めた。しかしゴーダには見破られていたらしい。彼女は静かに冷たく嘲笑った。


「わかった? 自分がどれだけ愚かなことをしたか」


 生憎、茉莉也の形見はコアしかない。ポケットに入れた純白のそれは、武器にはなってくれない。仮に手に入ったとしても本人しか扱えない仕様かもしれない。


 ここでギアーズを倒せば、ペレストロイカは一生ここで彷徨うことになる。

 もしくは、あの黒く醜い怪物にやられて生涯を終える。後者の方が有力だった。


「確かに……本当に僕は馬鹿なことをしたね。どうやっても僕には無理なんだろう?仕方ない、諦めるよ」


「諦める?」


 ゴーダが片方の眉を吊り上げた。その潔さに面食らったようだった。


「ああ。煮るなり焼くなり、好きにしたまえ。まあもちろん、僕が死ぬ前にヤツが死んだら、それはまた別の話だけどね」


 ペレストロイカは初めて、屈託のない笑顔を見せた。


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