表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
210/253

リコッタパンケーキにエゴのシロップを添えて3


 黒く濡れたように光る蜘蛛の脚は不気味だった。虚はだらりと黒い糸を垂らし、エメンタールを睨んだ。いくつもの目に自身の姿が映っていた。

全面鏡張りの部屋にいるような奇妙な感覚で、それとはまた違ったおぞましさが背筋を走った。


 まずは脚を刈ってしまうのが得策だろう。身動きは取れない方が望ましい。エメンタールは両手の鎌を振り上げ、虚の節足に刃をぶつけた。


生き物とは思えないような硬い音が響く。無論、これは決して生き物ではないが。地球生物のまがい物、そして、化物になってしまった誰かの魂だ。


 パラパラと虚の破片が落ちた。古びた家屋の天井から砂や小石が降るように。色を失った大地にぶつかって、灰のように細かく砕けた。


 このまましばらく殴り続ければ、なんとか大丈夫そうだ。エメンタールは少し胸を撫で下ろし、もう一度鎌を振りかぶった。


 一方、ゴーダは。


「悪いけど、仮に私を殺してもあの子は無理よ。あっちのピンク色の子はね」


「へえ、なんで?」


 ペレストロイカは上着の下に隠したナイフを手に取った。両手に三本ずつ。指の間にそれぞれ挟んだ。


「私たちとは“違う”のよ。何か思い入れがあるわけじゃないけど、一筋縄じゃきっと無理よ。諦めてここでやられることね」


「違う。じゃあ僕と君は同じってこと? 信じがたいけど……」


「そう。誰かを憎んで、誰かを殺すしか能のない愚か者。ホントの家族の温もりも、知らない」


「……よく知ってるねえ、僕のこと」


 ペレストロイカは、自身の虐待経験のことを言及されているのだと悟った。まさか、この女もか。


 だからと言って、同情なんてできない。そもそも、自分はその過去を捨てたのだ。何も心に響かない、本当に。


「ええそうよ。そしてあなたがここにいるということは、もうそちらも手札が少ないのでしょう。戦えるのはもうあなた以外いないんじゃなくて?」


「そうだとしたら?」


「叩き潰すまででしょう。私は好きなのよ、人を殺してしまうのが」


 空を切るように、ゴーダは跳躍した。普段の衣装とは違って、戦闘用のものは軽い。それがより彼女の身体能力を上げた。身軽に宙を舞うのは心地いい。


 自分で自分の言葉を疑った。ここまで倫理観を失っていたのか。たとえ反社会組織にいても、決して狂人になってはいけない。極めて冷静に、理性的に、「仕事」をこなさねばならない。

 

 ゴーダは少し怖かった。自分が理性を失ってしまいそうで。心の壊れた何かになってしまいそうで。けれども、目の前の標的から目を逸らすことはない。


 冷静に、理性的にしていればいいのだ。


「殺しが好きなのか。それは……僕も同じだ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ