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リコッタパンケーキにエゴのシロップを添えて2

 目の前の男は微笑むが、そこには確かな殺意があった。エメンタールは怯えたが、ゴーダが彼女の前に立ち護った。痛々しいピアスが光る背中は、エメンタールにとって十分逞しい。

 ゴーダは嘲笑するかのように口角を上げた。


「ペレストロイカ、ねえ。異国の言葉はよく知らないけれど、あなた、タチバナナナスケでしょう」


「……!」


「こっちがなんの情報も掴んでないと思った? 馬鹿ね。親に愛されなかった結果がコレって笑えるわね」


 ゴーダはペレストロイカが虐待児童であったことを知っている。というより、強く印象に残っていた。紙面で見た「立花奈々助」の名前と、経歴の文字列が。


 相手を煽りつつも、彼女の胸はチクリと痛んだ。同じなのだ、親に愛されなかったという事実が。そして結果が「コレ」。

 しかし煽りはペレストロイカへのみ与えているもの。たとえそれを一番近くで聞いているのは紛れもない自分だとしても。


「ああ、よく知っているね。でもその名前はもう捨てたんだ。僕は君の名前を知らないけど……なんていうの?」


「教えるまでもないわ」


 ペレストロイカはゴーダの言葉に苛つくことさえしなかった。変わらず飄々としていて、はっきり言って、ムカつく。


 突如、轟音がした。


 ゴーダとエメンタールは、この男に加えて虚とも戦わねばならない。片方に注意を向ければ、もう片方にやられる。加えて、エメンタールでは力不足。

 こんなときにパルメザンがいてくれたら。エメンタールは己の無能さに苦い表情を浮かべるしかなかった。


 黒い満月にひびが入った。両端からビキビキと、横に三本の白い線が引かれる。月は四分割された。真ん中にも縦一本のひびができる。

 八つに割れた黒い月。その中心から、黒い何かが生き物のように蠢きだす。


 沸騰した水のように脈打ちながら、月が形を変える。ペレストロイカもその様子を不思議そうに眺めていた。


 蜘蛛だ。


 八つの破片は脚となり、その中心が頭胸部、そして腹部になった。吐く糸は黒く、でろりと気味の悪い何かが垂れる。


 高さはこの監視塔の二倍ほど、横幅はこの空間めいっぱい。蜘蛛は空を這い、こちらに威嚇をしている。脚は太く、先端がナイフのように鋭かった。


「蜘蛛、蜘蛛ね。どうってことないわ」


「え!? いや、この大きさでそれは……」


「大丈夫。所詮は虫よ。それに、」


 ゴーダは自身の黒い鉤爪を眺めた。切れ味でも確認しているのだろうか。そしてエメンタールの握っている大鎌を指差した。


「クモよりもカマキリの方が強いのよ。ラボは私が相手する」


「……そうですね。私は、何かあったらうずらちゃんが来てくれますから」


 エメンタールは塔から飛び降り、蜘蛛の虚と対峙した。


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