リコッタパンケーキにエゴのシロップを添えて
国家管理局・西区。ゴーダとエメンタールは屋上で襲撃を待った。
地面には芽が出始めていた。若い緑色が顔を見せる。そろそろ虫も蠢き始めるのだろう、春はもうすぐそこにある。
「あなた、この仕事が終わったらどうするの?」
「えっ」
ゴーダがぽつりと呟くようにエメンタールに問うた。想像もしていなかった、確かに。ギアーズとしての任期が終わり、また新たな春がやって来たら。
そのときの自分は、どうなっているだろうか。過去を取り戻しているだろうか、それとも、何も変わらぬままこの一年を棒に振ったことになるだろうか。
「まあ、たった一年が終わったから何って話よね」
「そうですね。ゴーダさんは何かあるんですか?」
「私もない」
ゴーダは苦そうに笑った。この一年はきっと、これからの長い人生のうちたった一年に過ぎない。それでもなお、命を懸けて戦わねばならない。その現実が、彼女の「苦さ」の原因だろう。
自分が思い寄らないときに命を落とすなんて大いにありえるのに、なぜか人生は末永く続くと勘違いしてしまう。本当に、「たった」一年と言えるのか悩ましいところだった。
将来は憂うばかりである。
そんな自分をよそに、時間は容赦なく進む。どれだけ急いても怠けても巡る時は同じ。それで少しでも楽観的になれるならいいけれど。
「未来が不安で仕方がないです、私は」
「そうね。自分がいつ死ぬかわからないものね。でも一つだけ、はっきり言えることがある」
「?」
「いつ死ぬかわからないからこそ、常に自分の好きなように生きるの」
利己的な考えだと思ったが、否定はできなかった。エメンタールは彼女に頷き、その生き方を想像した。ただ、濃霧のようにぼんやりとしていて、言葉にすることができない。
――――warning!――――warning!!――――warning!!!――――
言語化するのはあとにしよう。
エメンタールはコアに意識を集中させ、戦闘衣装に着替えた。ゴーダもそれに倣い、黄泉が迫る空間を眺めている。
一点から広がるように、薄荷色の空が生まれた。ミントキャンディのような爽やかさを持った色だが、空気は殺伐としている。
ゴーダは黒く光る爪を伸ばし、空に浮かび上がる黒い満月をじっと見据えていた。
「あれー? 一足遅かったかな」
扉の方から男の声がしたため、二人は振り返った。黒い衣装に身を包み、臙脂色の癖毛を風でうねらせる青年。もしかして、こいつは。
「こんにちは。僕はペレストロイカ」
彼は人畜無害そうな笑顔を浮かべた。その右手には、白く輝くコアがあった。疑いの余地もない、こいつはラボの人間だ。
「例の化け物はもう倒したのかな? それともこれから?」
「僕はね、君たちを潰したい。どうかな? ここで三つ巴戦争でも」