偕行10
「うん……今日から君の名前はペレストロイカだ。古い名前なんか捨てて、新しい自分になろう!」
Яから貰った名前は「ペレストロイカ」。意気揚々と新しい名を告げられた。
この施設の一員になるには、過去の名前、つまり本名をなかったことにする。そして新しい名前をЯからもらう。そういう決まりらしい。
十四年間も使ってきた「立花奈々助」という名をあっさり捨てるというのは難しい。しかし、なぜか「ペレストロイカ」の方が本来の自分のように感じてしまった。
名前ごと、これまでの地獄のような人生ごと、全て消し去って新たな自分をもう一度構築する。もう同じ轍を踏まないよう、他の誰かに自分を壊されないよう。
これまでの全ての憎悪がエネルギーになっていく気持ちだった。そのエネルギーが「ペレストロイカ」へと変えていく。
無愛想で根暗な自分はもういない。そしてその日から、Яのために生きると誓ったのだ。
・・・
今日この日だってЯのため。茉莉也の遺したコアを握り、国家管理局監視塔を見上げた。象牙のようなそれは高く聳え立つ。まるで全てを見下ろすように、まるで全てを見通すように。
真打の仇もいると尚良い。手間が省ける上にЯも喜ぶ。
しかし、真打と同じところへ行くつもりはない。命を賭してでも、という気持ちではあるが本当に命を懸ける必要性はないと考えていた。死んでしまったら、元も子もないのだから。
塔にコアをかざして、その扉を開いた。高速エレベーターに乗り込む。
局はこのコアを取り上げようとしない。不用心にも程がある、と思った。これがこちらの手に渡っていることなど知っているはずなのに。もしかして、そういう罠だろうか。
罠なら罠で仕方ない。愚かなふりをして引っかかってやろう。自分の腕には自信があった。刃物ならなんだって扱える上、真打よりも殺しは上手い。自慢ではなく、事実だ。
実際、真打の爆弾技はペレストロイカの援護があってこそなせるものだった。
彼が爆破し、それでも焼けなかった相手を自分が倒す。真打は近距離だったら丸腰だ、だからペレストロイカがいないと敵と対峙できない。
その支え合いの関係がこの上なく心地よかった。
真打はまるで弟のようだった。ラボに来たのは真打の方が先輩だが、実年齢はペレストロイカが八つも上だ。
職業柄、真打も自分もいつ死のうがおかしくなかった。むしろ今まで生きていた方が奇跡。Яは自分のためなら子どもに殺しを要求する男なのだから。
だけど、「早すぎる」と思ってしまうのはなぜだろうか。