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偕行4

 ・・・


 一般人の母親と、反社会組織の父親の間に生まれた。立花たちばな奈々助(ななすけ)、のちの名を、ペレストロイカ。

 

 物心ついたころから、自分には友達がいなかった。なれなかった、というのが正しいだろうか。

 教室にいても、校庭で遊んでいても、クラスメイトがどこかよそよそしい。誰も奈々助を本当の意味で友達だと認識してくれなかったのだ。


 教室の隅で本を読む奈々助を横目に、ひそひそと数人が話していたことがある。「立花くんは……」「『ヤ……』でね、」って。聞こえてますけど。

 学年が上がるにつれて、その理由が父にあるとわかってきた。だからといって、それに文句を言うのは違う気がした。その代わり、奈々助本人は根暗で愛想のない卑屈な性格になっていった。


 奈々助は現代に似つかわしくない、大きな平屋の家に住んでいた。木製の門には大きく立花の家紋が描かれている。門から玄関まで二十メートル程の砂利道がうねり、庭は梅や松があった。

 家はいつも知らない人たちがいた。やけに父親に媚びへつらい、小学校から帰って来た奈々助を見ると深くお辞儀をする。奈々助はいつも無愛想なまま軽く会釈で返した。


 板張りの長い廊下を歩き、奥の部屋の襖を開ける。子どもの一人部屋にしては広い畳の間だった。よくある学習机と、クローゼット。寝室は別にある。

そして残りのスペースは全て本、本、本。


 奈々助の部屋と母親の書庫を兼ねていた。部屋が足りなかったわけではない。奈々助本人の希望だった。母はそれを快諾した。

 彼女は読書家だった。月の初めには必ず「シンカンが、シンカンが」と慌てながら出かけて行った。そして帰って来た母は両手に本を抱えていた。


 やがて母は病に罹り、四六時中ベッドで寝る生活になった。父はそんな母を心配しながらも、どこか他人事のような表情をしていた。


「お母さん。『シンカン』って何?」


「シンカン? ……ああ、新刊ね。新しい本のことよ」


「新しくない本は全部読んじゃったの?」


「……積んであるからいいのよ! じゃあ、奈々助が読む?」


「いいの?」


「うん。私はもうほとんど読めないもの。奈々助が感想を聞かせてよ」


「……わかった!」


 それからは毎日、学校から帰ると自室で本を読み耽った。物語が終わると母のところへ駆けつけ、「今日はこれを読んだ。明日はこれを読む」などと感想を報告しに行った。


 傍から見れば、ただの現実逃避に過ぎなかっただろう。無味乾燥な学校生活から逃れ本の世界に飛び込む。その間は何もかもを忘れられた。そして最後のページに辿り着いたときの虚無感を何度も味わった。


 そんな日常は驚くほどに簡単に壊されてまった。父の手によって。


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