表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
199/253

偕行2

 思えば、かつて二人の性格はまるで逆だった。ペレストロイカが孤児院にやって来たのが十四歳。その当時真打はたったの六歳。


 ――――随分年は離れてるけど、今はほとんど変わらない感じがするなあ。


 真打が大人びていったのか、自分に童心が宿ったのか。

 というのも、かつての真打は笑顔が良く似合う可愛らしい子どもだった。愛嬌があり、誰とでも仲良く接することのできる少年。眼鏡をかけ始めたのは彼が十五のときからだった気がする。


 対して、ペレストロイカはどこまでも無愛想な少年だった。父からの虐待と、見知らぬ誘拐犯との監禁生活から逃れた結果、歪んだ性格が形成されてしまった。

 目に光は宿っておらず、髪も整っていない。卑屈で疑心暗鬼しがちな中学生。孤児院で過ごした十四年の歳月を経て、今では楽観的な青年になった。


 お互いの性格が逆転するターニングポイントがいつだったのかはわからない。しかし、要因はきっと、己の過去と現在の対比を感じたからだろう。

 

 真打は思春期が近づくにつれて、自身がコインロッカーで保護された事実をはっきりと意識しだすようになった。本当は死ぬはずだったのに生きている。その現実を受け入れなければならなかった。彼から笑顔が消えたのはきっと、それだ。


 そしてペレストロイカが笑顔を取り戻したのは、己の過去とは打って変わった孤児院での生活のおかげだった。

 自分を殴ってくる父親も、閉じ込めて自由を奪ってくる男もいない。代わりにいるのは優しいペストマスクの男と、たくさんの仲間。


 明日何を食べればいいのか考えることも、日夜恐怖と不安に襲われ続けることも、孤児院ではなかった。衣食住は保障され、十分な教育と休養を得られる。彼の心はまるで浄化されたかのように暖かく豊かになった。


 ――――……その結果が“これ”なら、僕は神様を一生恨むね。


 自分はとっくに、自身の過去に打ち勝ったのだ。しかし真打はまるで一生背負うかのように、生まれたばかりのたった一瞬のことを気にし続けていた。


 あまりに愚かだと思った。何をそこまで執着するのか、理解できなかった。

 無論、彼の生い立ちを知ったのは最近だが。それでようやく合点がいったのだ。真打は生に引きずられ続けている、と。


 どうしてもっと早く教えてもらわなかったのだろう。

 十年以上、打ち明ける機会がなかったのだ。ペレストロイカの心は後悔で満たされた。でも、もう遅い。


 ・・・


「Я」


「ん?」


「次は僕が行く。僕しかいないんだから」


「……もう少し待ってからでもいいんじゃないかな」


「いいや、すぐだ。たまには子どものわがままくらい聞いてよ」


「…………わかった。くれぐれも、気を付けて」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ