偕行2
思えば、かつて二人の性格はまるで逆だった。ペレストロイカが孤児院にやって来たのが十四歳。その当時真打はたったの六歳。
――――随分年は離れてるけど、今はほとんど変わらない感じがするなあ。
真打が大人びていったのか、自分に童心が宿ったのか。
というのも、かつての真打は笑顔が良く似合う可愛らしい子どもだった。愛嬌があり、誰とでも仲良く接することのできる少年。眼鏡をかけ始めたのは彼が十五のときからだった気がする。
対して、ペレストロイカはどこまでも無愛想な少年だった。父からの虐待と、見知らぬ誘拐犯との監禁生活から逃れた結果、歪んだ性格が形成されてしまった。
目に光は宿っておらず、髪も整っていない。卑屈で疑心暗鬼しがちな中学生。孤児院で過ごした十四年の歳月を経て、今では楽観的な青年になった。
お互いの性格が逆転するターニングポイントがいつだったのかはわからない。しかし、要因はきっと、己の過去と現在の対比を感じたからだろう。
真打は思春期が近づくにつれて、自身がコインロッカーで保護された事実をはっきりと意識しだすようになった。本当は死ぬはずだったのに生きている。その現実を受け入れなければならなかった。彼から笑顔が消えたのはきっと、それだ。
そしてペレストロイカが笑顔を取り戻したのは、己の過去とは打って変わった孤児院での生活のおかげだった。
自分を殴ってくる父親も、閉じ込めて自由を奪ってくる男もいない。代わりにいるのは優しいペストマスクの男と、たくさんの仲間。
明日何を食べればいいのか考えることも、日夜恐怖と不安に襲われ続けることも、孤児院ではなかった。衣食住は保障され、十分な教育と休養を得られる。彼の心はまるで浄化されたかのように暖かく豊かになった。
――――……その結果が“これ”なら、僕は神様を一生恨むね。
自分はとっくに、自身の過去に打ち勝ったのだ。しかし真打はまるで一生背負うかのように、生まれたばかりのたった一瞬のことを気にし続けていた。
あまりに愚かだと思った。何をそこまで執着するのか、理解できなかった。
無論、彼の生い立ちを知ったのは最近だが。それでようやく合点がいったのだ。真打は生に引きずられ続けている、と。
どうしてもっと早く教えてもらわなかったのだろう。
十年以上、打ち明ける機会がなかったのだ。ペレストロイカの心は後悔で満たされた。でも、もう遅い。
・・・
「Я」
「ん?」
「次は僕が行く。僕しかいないんだから」
「……もう少し待ってからでもいいんじゃないかな」
「いいや、すぐだ。たまには子どものわがままくらい聞いてよ」
「…………わかった。くれぐれも、気を付けて」