邂逅の後悔とその回行6
「あ、シンウチ。おかえり」
拠点に戻った真打は、ペレストロイカに迎えられた。真打の白衣は裾が煤だらけで汚れている。しかし着替えもせず、そのまま相棒と共に食堂へ向かった。
「昨日の残りあるけど食べる?」
「食べる」
縦長の広い空間に出ると、細長い食卓に真っ赤なクロスが目に入った。一定間隔に三又の燭台が並び、卓と同じ海老茶色の椅子たちが置かれている。
「お、偶然じゃないかお二人さん」
その一つで軽食を摂っていたギグルが片手を挙げた。絢爛豪華な食堂にはミスマッチな「お徳用ミニピロシキ」のパッケージが卓にあった。
「シンウチくん服ボロッボロじゃん。着替えないの?」
「……めんどくせえ」
「まあシンウチはいつもこうだから」
からからとペレストロイカが笑った。現に、彼の服装はいつも裾が黒く汚れている。本人はまったく気にしていないが、同胞はそうではないようだった。
真打にとって、白衣の下には真っ黒なスーツが定番になった。以前はなぜかЯから貰ったバーテン服だったが、仕事着にふさわしくないような気がしたのだ。適当なスーツ店で選んで新調した。
「いつもこうなのは知ってるけど、そうじゃなくて。いつもよりボロいってことだよ。そんなに今日は手こずったの?」
「今日はギアーズだった。まあ……妙な女だったよ」
「ふぅん」
ギグルは興味なさそうにピロシキを口に放り込んだ。
……
……
……
まるで走馬灯のように過去の記憶が蘇った。何気ない日常の一部だが、ひどく懐かしく感じた。死に瀕したわけでも、自身が危機に曝されたわけでもない。
“驚愕”。
その一言に尽きた。
【死んでると思うなよぉぉおぉぉぉぉぉおぉおおぉぉぉ】
パキリ、と何かの割れる音がした。屋上の縁、床と壁の境界。そこから声が聞こえたのだ。
バキバキと土の破片が割れていく。
刮目せよ。魔法が生んだ怪物を。正義を振りかざす利己心を。その生命を。
それは生きていた。
縁に手をかけ、その片手だけで己の体全てを落下から防いでいた。風で衣服や髪が揺れる。まさに生か死の瀬戸際。
空中でぶら下がっていた足で壁を踏んだ。腕と脚に力を込め、屋上へ舞い戻る。
【ちゃあぁぁんと死んだか確認しろってぇ。終わりじゃないぜ】
真打は思わず背筋を凍らせた。死なないという意志を肌で感じたのだ。その冷たさを溶かすように、爆弾を次々と投げた。
それでも冷静さを欠かなかった。予想外、たかが予想外。それでも目的は敵を滅ぼすこと以外にない。
まだ戦いは終わっていない。抉れた大地は戦場と化した。