邂逅の後悔とその回行5
一度生まれた炎は真打の撒いた油に沿って次々と点火した。火の壁が赤くパルメザンの後方を囲った。大波のように揺れ、酸素の供給を絶たれることなく燃え盛る。
彼女の大量のグミキャンディも炎の餌食となった。パッケージも炭と化し黒く無残な姿になっていく。ポップにかたどったゼラチンも情けなく溶けた。色とりどりのそれがでろりと形を失い、砂糖の甘ったるい香りが鼻の奥を突き抜けるようだった。
【あっついなあ……。これがキミの得意分野か】
真打は無言で立ち上がり、白衣の裏に忍ばせた爆弾に手を伸ばす。自分は屋上のドアに背を向け、爆発の避難を可能にした。
「そうだ。気づかなかったか、お前も服に火が着いたら終わりだぞ」
パルメザンの衣服は既に真打の猛攻を受けていた。体は機械油まみれだった。
【気づいてるに決まってんだろ。こんな臭えのにバレないわけねえだろうが】
そして彼女は右拳に力を込め、目を瞑った。黙って死を受け入れたのだろうか。真打は眉を顰めた。潔いにも程がある。彼女の動きを待った。
パルメザンの体を緑色の光が覆った。だんだんと晴れ、かすり傷だらけだった彼女は対峙する前の姿になっていた。
「まさか」
【悪いな、魔法はこんなこともできちまうんだ。ムカつくだろ? でもこれ、ボクの力だけでやってんの】
身の危機を感じ、真打は躊躇なく爆弾を投げた。火の壁にぶつかり、その海へ消えていく。
3
2
1
起爆。
こちらの体力を消耗することを危惧し、早めにかたを付けてしまうのが最善だと思った。そのため、彼は一番爆発力の高いものを選んだ。投げた隙にドアを開け、エレベータに閉じこもる。
本来ならこの高さの塔も半壊するほどの威力だが、外壁はびくともしなかった。真打はその仕組みを知っていた。だからこそ、己が巻き込まれることを心配せずに威力に任せた攻撃ができたのだ。
屋上の土が破片となって吹っ飛ぶ。一部がばらばらとはるか下の地面に落ちていった。抉れた傷のような惨状がそこにあった。
敵は死んだだろうか。真打は静かにドアを開ける。普通の人間ならば、バラバラに焦げていてもおかしくない。ちゃんと中まで火が通るくらいの爆破だった。
辺りは火の海だった。黒と赤が混在する空間だった。それでも真打は油断せず、別の爆弾を持ったまま敵に近づいた。
「……?」
――――いない……。落ちたか?
土埃の中、左右を見渡した。一人分の足音だけが鳴る。落ちたとしても、この高さで生き残れる奴などゼロ。科学的ではない。
「やったか……」
万が一生きていたとしても、これほどの衝撃で戦える体などない。魔法とやらも、使える余裕がなければ無意味だということが証明された。死体を確認できないのは残念だが。
真打は一呼吸つき、退散の準備を整えた。