邂逅の後悔とその回行4
対峙。
それからは無言の潰し合いだった。まずは拳。固く握られたそれが両者の顔面に迫っては空気を殴る。
腹、肩、顎。それぞれにピントを絞り炸裂させた。ほとんど避けて、たまに掠る。冷たい空気の中、二人分の荒い吐息と土の粒の潰れる音が聞こえた。
お互い痺れを切らし、自身の得物を使い始めた。
真打は鉄砲を構え、四方八方に乱射する。それを見たパルメザンは鎖を引き伸ばし、構えている腕に巻き付かせた。無理やり引っ張り彼の肘を曲げ、自身に向いていた銃口を上に向かせた。
鎖の金属がお互いに軋みながら、真打の腕をゆっくりと絞る。白衣の袖が捻じれた皺を作っていた。
――――……こんなもんか。
鎖の終点にある星球は顔の真横にあった。しかしそれを視界にも入れず、鉄砲を持っていない左手で鎖を掴む。そして力を込めた。
ガチ、バキバキ、ジャラッ、どさどさどさ、り。
「えっ……」
パルメザンがわかりやすく声を漏らした。思わず目を丸くし、口裂け女のように口角を上げた。
「虚でも切れないのに……キミすごいね! とんでもねえ怪力!
――――……でも、残念だな」
突如、真打の背に重い何かがぶつかった。その勢いは容赦ない。棘のようなものが食い込み、彼の血管が千切れる。
そしてその隙に左拳で腹を殴られた。空腹でなければ嘔吐していただろう、体内の臓器が悲鳴をあげた。
「ぐっ……あ、」
真打はその場に倒れ込み、蹲る。腹と背中がまるで鈍器で殴り続けられるように痛む。乱れる呼吸を拙く整え、パルメザンを睨んだ。
「おっと……こりゃ大変だ。Aはは」
鎖が途中で千切れた柄をはたきながら嗤った。ジャラジャラと嫌な音がする。それとはまた別の、何かが這う音がした。
――――嘘だろ……。
これは予想外すぎた。真打が壊した鎖の残骸が蛇のようにうねっている。星球も同じで、動きながら棘が地面を抉っていた。背中に投げられたのはこれで間違いないだろう。
「鎖を自在に操れるのか……気持ち悪ィ」
「その気持ち悪ィものでみっともなくやられてんのは誰だよ、なぁあ?
わかってくれよ、魔法はなんでもできるわけじゃねえんだ。生きてるものを別の何かに変えるってできねえの」
【……まあだから、ちゃんとキミを始末しねえとキミは糖分になれない。キモい蛋白質のままでいるのは嫌だろ? 腹くくってくれよ】
少女とは思えないほど醜悪な笑みだった。しかしその目は爛々と輝く。まるで、悪魔。一体コイツのどこが正義の味方なのだろう。
真打は思わず笑いを溢した。骨が軋むが、面白くてたまらない。
「腹ァくくるのはお前の方だ」
【あ?】
ポケットからライターを取り出し、着火する。
そしてそれを、パルメザンの後方に放った。
焔。
雄叫びをあげるように、炎が勢いよく姿を現した。