邂逅の後悔とその回行3
パルメザンと名乗った少女は真打よりも小柄で手足も細かった。その癖に自分に一度たりとも怯えず、殺すと言った。
――――馬鹿だ。
子どもの戯言など気に掛ける必要は毛頭ないのだが、少しだけ頭にきた。茉莉也みたいな生意気なガキだ。
間髪入れずパルメザンに右拳を振った。しかしそれは躱され、ひゅう、という空を切る音が虚しく鳴る。
別にこの女が攻撃を避けたことに特段驚きもしない。そういった相手を見くびるような行為はまだまだ三流だ。二十年もの間、他人の命を奪ってきたのだ。予想外のことが起きるのは至って「普通」。
暗殺において禁物なのは、油断。相手を弱いと罵る、自分は強いと過信する。真打にとってそれは断固として論外なのだ。
そして茉莉也はその論外な行為を極めて軽率にする。そうだ、アイツのそういうところが嫌いだったんだ。無意味に煽り、神経を逆撫でする。嫌いなのに、なんだこの虚無感は。
そんな彼とは反対に、常に全力で相手を潰しにいくのが真打だった。
そして必ず、仕留めるのはじわじわと外側から。
躱されたのを悟った真打はすかさずベルトの鉄砲と取り出す。距離をさらに詰め、ばれないように発射。パルメザンの靴に油をかけた。
「あははは、避けられるとは思わなかったか? ボクはただのガキじゃねえよ」
彼女の言う通り、パルメザンは「ただの」ガキではないように見えた。肝が据わっておりこちらの殺意をもろともせず、逆に殺意を感じる。
さすが異形を相手に戦っているだけある、と真打は素直に感心した。しかしまだ、彼女は足元の工作には気付いていない。
――――油断するな。必ず殺せ。
パルメザンは笑いながら変身した。真打がこれを「変身」とわかったのは、茉莉也が過去にЯたちの前で披露していたからだった。
緑色の光が彼女を包み、それが消えた頃には違う服装をしている。柄に棘だらけの鉄球が鎖で繋がれている武器――モーニングスターを右手に握っていた。
「聞いてくれるかい、真打くん」
馴れ馴れしく笑いながらパルメザンは真打を見た。その目は妙にどす黒く、光を失っていた。答えてやる必要もないので無視したら、彼女は勝手に話し始めた。
「ボクはね、君たちみたいなやつが一番嫌い! どんな極悪人よりも、だ。そう! 『必要悪』ってやつが大嫌いなんだよ。
悪は悪でしかない。どんな悪も不必要。世界を成り立たせるにはどんな悪も滅びねばならぬ。
キミは真っ白だね。ケーキにでもしてしまおうか?」
「……俺も、お前みたいなやつは死ぬほど嫌いだよ。自分が正義の味方だと疑わない、ただのエゴイストがな」
……
……
……
……
【AHAHAHA! 面白いなキミ!】