かいこうのこうかいとそのかいこう6
――――紛失届……。
紛失届というのは、自分の失くした物を国が捜索してくれるサービスだ。局のマップやデータから紛失物を探す。料金はなんと、かからない。
エメンタールは当番終了後、博物館でインターネットにアクセスしていた。
縦が十センチ、横は五センチほどの通信機器から画面が浮かび上がる。この機器は電話にもパソコンにも鍵にもなる。映写機のような役割をするため、液晶画面からスクリーンを出現させるようになっている。
画面のタップとスライドを繰り返しながら、エメンタールは国家管理局のページにアクセスした。「JPN.665482BBRさん」と右上に表示される。
「要望」「ヘルプ」「メディカル」……。など、アクセスボタンの中から「届け出」をタップする。そこから「紛失」の欄を選んだ。
紛失した物、その特徴、失くした時期などの記入欄があった。しかしエメンタールはそのうちの「紛失した物」しか書くことができなかった。まっさらな欄がいやに目立つ。
――――ちゃんと受理されるかな、これ……。
手続き後、不安になりながらもウインドウを閉じた。紛失届を出しても、必ず見つかるという保障はない。
優先順位が違えば、その情報量も違う。したがって、そもそも受理されない可能性もある。例えば授業のノートで届を出しても、「そんなもの自分で探してください」と突っぱねられてしまう。当然と言えば当然だが。
「あれ、エメンタールさん? どうしたんですか?」
「うずらちゃん」
声の方向を見ると、博物館の入り口に五味うずらがいた。彼女は相変わらず同じ服装で、黒いセーラー服に黒いハート形の眼帯を纏っている。
「何かあったんですか? 悩み事とか?」
「そうじゃなくてね、紛失届を出したんだ」
「紛失届ですか。何を失くしたかお尋ねしても?」
「日記なの。お母さんがつけてた日記。見つけたいんだけど、全然検討がつかなくて」
「なるほど……」
彼女は腕を組み、唸った。やや曇った表情をしだす。
「あそこは厳しいですからねえ。本来は鍵とか、キャッシュカードとかが対象なんです。あとはまあ、結婚指輪とか」
「ご、ごめん……」
「いやいや! 届け出を出すことに意味がありますよ。確かに厳しいですけど、鬼じゃないですし。見つかるといいですね!」
「……ありがとう」
さて、とうずらが博物館の照明や空調を切り始めた。もう終業時刻なのだろう、夕方の生温い空気が漂った。
「エメンタールさんも、もう業務は終わりですから。気を付けて帰ってくださいね!」
「うん。じゃあ、また!」
エメンタールは階段を上り、帰路についた。