かいこうのこうかいとそのかいこう5
落ちた火花が稲穂に移る。雨のように降り注ぐその一粒が、静かに燃える種となった。冷たいほどに暗いこの空間に、一つの炎が生まれた。
それは次第に大きくなり、明かりのように虚とゴーダを照らす。黒の装備に赤の光が混じる。それでも彼女はこの漆黒の鎧に爪を立てた。
「ゴーダさん!」
「平気」
エメンタールがゴーダの元へ駆け寄ろうとしたが、制された。ギリギリと嫌な金属音が響く。思わず耳を塞ぎたくなるほどだったが、エメンタールは鎌をしっかりと握った。きちんと止めを刺すために。
ガキリ、と何かが外れる音がした。そのあとに重みのあるそれが落ちる。どさ、という音がした。
それは虚の腕だった。肘から下が斬られ、腕だった部分は稲穂の群れに沈んでいった。切断面は、まるで鎧で囲われた穴だった。その中身は何もなく、井戸を彷彿とさせた。見えないほど暗く深く、未知に対する恐怖と好奇心が煽られる。
「よし、もう一本」
虚は苦しみの声を上げていた。耳を裂くような叫び。空間すら劈くようだった。ゴーダは全く怯まず、もう片方の腕に爪で傷を付けた。
虚は叫びながら肘までしかない腕を振った。しかしそれは効果などなく、ひゅるひゅると風の音が虚しく鳴るのみだった。
燃え盛る炎の中、ゴーダは腕を斬った。鎧が砕ける音がした。もう一度、切り離された腕が田園の中へ落ちていく。
「エメンタール。ほら、今」
「は、はい……!」
エメンタールは虚に接近し、鎌を振りかぶった。胴の中心線から少し向かって右側。人体でいう心臓に当たる部分を目がけて切っ先を降ろす。
ガチン! と刃と鎧のぶつかる音がした。そのまま力を込め、刃を埋めていく。
「ぐ……!」
炎の熱に耐えながら鎧を壊していく。切っ先に触れた部分から放射状の亀裂が入っていった。ピシピシと蜘蛛の巣のように広がる。
「頑張れ、いけるわよ」
エメンタールは出し切れる力全てを出力した。鎧がぽろぽろとこぼれていく。
――――あと少、し……!
ばらばら、ばら、ば、ばららら。
――――――!!!!!!congratulation!!!!!!――――――
真っ黒な鎧が砕け、朽ちていった。同時に空には青が広がり、日常が再来する。
「でき……た……」
エメンタールは自分の鎌を呆然と見つめた。目がきらきらと輝きだす。しかしゴーダはそんな様子ではなく、極めていつも通りに話しだした。
「さっき言おうとしてたこと」
「え?」
「日記のことよ。紛失届を出してみるのはどうかしら」
「紛失届……どこにですか?」
「国家管理局よ。もしかして知らないの?」
「は、はい……」
ゴーダは呆れたようにため息をついた。エメンタールは申し訳なさそうに姿勢を歪める。
「まあ、使える手は使った方がいいわ。アドバイスしたからね」
「……ありがとうございます!」