あるまじき、さるまじき8
そして今日に至る。
かつて人だったこの甘味たちを、パルメザンは躊躇いなく口に放り込んだ。人間の屑でも、こんなにおいしいお菓子になれるのだ。魔法ってすごい。
彼女が口にしていたものは、全て。彼女の胃の中へ消えていった。しかし決して、無から菓子を生み出すことはしなかった。
悪趣味だから、面倒だから。そんな理由ではない。パルメザンは気付いていた。
魔法というものは、無から何かを生み出すのに適していないことを。
決して不可能ではない。御伽と魔力指数さえあれば、何もない空間から何かを出現させることはできる。その逆も然り。
要はコストの話だ。無から有を作る、有を無に帰す。どちらも自然の摂理に反する行為。パズルのピースは多くても少なくても駄目なのだ。だけど魔法ならできる。その代わり、指数は大幅に減る。
ならばどうするか? 「代わりを作れ」ばいい。パズルのピースの一つを抜き取って、それと同じ形のクッキーを嵌める。そうすれば、御伽と指数の消費をぐっと抑えられる。
これに気が付いたのはずっと前。初めて魔法に触れたとき。五味の指示で、何の変哲もない石ころを別の何かに変える練習をした。なぜわざわざ石を用意したか。その疑問に対する答えが、コスト制限のためだった。
そしてその仮説は的中した。五味本人に以前聞いたのだ。そして彼女は「その通りです」と言った。
五味は隠すそぶりも大っぴらにするそぶりも見せず、パルメザンの説を正解と答えた。しかし他のメンバーは知らない。
パルメザンも、誰かに言う気はしなかった。秘密にしたいわけではなく、単純に必要性を感じなかったから。
それでも、彼女は魔法の全てを知ったわけではない。また新たな仮説を立てていくしかなかった。それは一種のゲームのようで、彼女の好奇心を大いに奮い立たせた。
――――warning!――――warning!!――――warning!!!――――
「……時間か」
パルメザンは口角を上げ、残りのシュネーバルを平らげた。胸元のリボンに装飾されたコアを緑色に光らせる。それと同時に、空も緑に染まっていった。
戦闘衣装に着替え、武器のモーニングスターを握る。黄泉の時間がやってくると、彼女の胸は一層高鳴った。
真っ黒な星が八つ、瞬いた。
月はない。たった八つの星が流星のようにこちらへ迫ってくる。
――――なるほど。
武器の鎖を伸ばし、流星を同時に「斬る」。
――――――!!!!!!congratulation!!!!!!――――――
「……はァ」
黄泉が終わるよりも早く、変身を解いた。そしてまた座り込む。
「お菓子全部食っちまったよ! 残しときゃよかった!」
口寂しいまま、残りの時間を過ごした。