あるまじき、さるまじき7
「ユキチャン」運転手が闌を撫でる。「今日からよろしくね」
闌を囲みながら立つ男たちはクツクツと笑った。
「じゃ、さっそくやっちゃおっか!」
いつの間にかヤスは鋏を握っており、振りかぶったまま闌に襲い掛かった。
ザッ……。
「…………え」
ヤスの腕に鋭利な刃物が刺さっていた。その拍子に、持っていた鋏も床に落ち、鋭い金属音が響く。刃物が腕から抜かれると、そこから噴水のごとく体液が噴き出した。
「いってええええ!」
ヤスの様子に戸惑いを隠しきれない他の3人が、闌を見た。
闌の左手には1本のナイフ。左腿にくくりつけていたポーチの中から取り出したのだ。
3人が闌へ襲い掛かろうとする。しかし。
「――なあ、」闌が話し出す方が早く、男たちは緊張に息を飲んだ。それほどその声は冷たく、殺意を本能的に感じさせた。
「なんで生きてんだ、お前ら」
「お前らみたいなゴミが生きてて、ゴミじゃない人間たちが死ぬ。なんで?」
「国家管理局は馬鹿だ」
「たった上澄みの悪だけを掬って、取り締まって、それで平和が成り立ってるつもりでいる!」
「みんな馬鹿だ」
「この国は何も満たされちゃいない。ハリボテの平和のために、正しい奴らが皆消えてく!」
「だからボクだけは、真の正義のヒーローになる。本当の悪を潰してやるの」
右肩のポーチからナイフを取り出す。
「……ヒヒ、ヒ。うはっ……。アハハHAハハ!」
壁や床を跳躍しながら、男たちの筋肉や脂肪に突き刺していく。灰色と茶色しかなかった倉庫内に鮮やかな赤が広がる。空間の温度は上昇していった。
闌は降り注ぐ温かな返り血を浴びながら、両手にナイフを握り彼らの肉を切り裂く。骨で刃がガチリと引っかかっても、力尽くで抜いた。
悲痛な叫びの雨が降る。たった十七歳の少女とは思えない力だった。どれだけ騒いでも、寝静まった街には届かない。
「……はあ」
天井まで届いた血液を眺めながら、ナイフで空を切った。ルビーのような色の飛沫が上がり、彼女は綺麗になった刃物を元のポーチの中へしまった。
四人の男はピクリとも動かず、まだ温度のある体液が床に流れる。彼らは逃げる隙すら与えてもらえなかった。
彼女は最後に御伽を口に放り込み、奥歯で噛み潰した。
――こいつらをお菓子にしてください。
床に転がった肉片たちが丸く団子に成形されていく。大量のそれらは緑色の光に包まれ、それが消えた頃にはシュネーバルが彼女の前に盛られていた。
――……この量は、明日だな。
・・・