表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
180/253

あるまじき、さるまじき6

 スティルトンの死から一週間が経った。二月の風は先月よりも柔らかく、冷気が街を撫でていく。パルメザンは監視塔の屋上で敵の襲来を待っていた。


 どこから持ってきたのか、白いガーデンテーブルとチェアに座り一人のティータイムを始める。テーブルには山のように積まれたシュネーバルが佇んでいた。

 一つつまみ、口に放り入れる。クッキーに似た生地が砕け、シナモンの香りが広がった。


 スティルトンの訃報は淡々と知らされた。残り三人しかいない中、空気はどこまでも沈んだ。ただ三人とも、「やっぱりか」という感情が故意なく湧いてしまったのだ。

 エメンタールはゴーダと当番を担当することになった。パルメザンはその強さから一人で任された。協調性のなさもまた、無きにしも非ず。


 彼女にとって孤独であることはまったく苦ではなかった。むしろ群れでいる自分の方が違和感がある。気づいたときには天涯孤独。金も家もなくただ生きている。


 それが幸木さちき たけなわ。またの名を、パルメザン。


 ・・・


 一日前、人気も陽の光もない夜の歩道に座っていた。澄んだ空気に星が控えめに輝く夜。その明かりも見えるほど街の光は消え失せ、静かに眠りについていた。FASも、今日は別の区域を巡回しているらしい。


 車道に面してガードポールに腰かけていると、人工の光が二筋、右から左――こちら側へ向かってくる。白いバンだった。その一台だけが道路を走る。

 闌の前を通り過ぎたと思ったらすぐに停車して、運転席の窓が開いた。そして中から男がこちらへ顔を向けてくる。


「お嬢ちゃん、ちょっと道を聞きたいんだけど、いいかな?」


「ああ……。はい、いいですよ」


「ここから一番近い郵便局が知りたくて……わかる?」


「もちろん。少し行き方が複雑なんですけど……」


「ああ、じゃあそれならさ!」闌が説明しようとすると、男がそれを遮った。「車乗って、案内してくれる?」


「……もちろん」闌は快く笑顔で引き受けた。「いいですよ」


 バンの中には運転席と助手席、後部座席に二人、計四人の男が乗っていた。

 全員二十代後半ほどの見た目で、全員頭の悪そうな格好をしている。スライドドアを開け、闌は後部座席の端へ座る。ドアの鍵がガチャリと閉まった。


「ね、名前、なんていうの?」隣に座る金髪の男が闌に話しかけた。「俺はヤスっていうんだけどっ」


「ユキです」息をするように噓をついた。何か語りだした金髪男をよそに、運転席の男に道を案内する。


「このまままっすぐ行って、次の交差点を左折してください」


 はいはぁーい、という間の伸びた返事をした運転手は強くアクセルを踏んだ。騒がしい男たちの声に騒がしいエンジン音が重なった。


「あ、ここですここです。この交差点を左」


 出発点から三百メートルほど走ると交差点が見えた。しかし運転手は闌の言葉を無視し、青信号を直進した。闌は動揺を隠せない。


「えっと、さっきの道を左……なんですけど…………」


 四人の男が下衆な笑みを浮かべた。ヤスが鋭い歯を見せ笑った。「まあまあ、寄り道してこうよ。ユキチャン」


 戸惑い怯える闌がドアを開けようと試みるが、閉まったままだ。男たちの笑い声がより一層車内に響いた。


 連れられた先は、狭い木造の倉庫。現代の景観にそぐわないその建物は、違和感しかなかった。そして闌ら五人しかいない。

 闌は思わず床にへたりと座り込んだ。土でできたそれは、悲しいほどに冷たかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ