あるまじき、さるまじき2
更田真打が安名茉莉也の訃報を聞いたのは、彼が亡くなった翌日のことだった。
彼とペレストロイカが倒れていたのを一般研究員が見つけたという。後者の息はこと切れてはいなかったが、隣にある死体を目の当たりにして精神的ショックを受けたらしい。そしてその研究員は今、中央病院のPT棟にいる。
同じ種族の生き物でも、その心臓が止まっていれば恐怖の対象になる。
飛び散った体液か、溢れ出る内臓か、はたまた霊的な何かか。命のないものは総じて恐怖。
「……マリヤはきっと、僕を生かしたかったんだ」
その恐怖に向き合った者、ペレストロイカがぽつりと呟いた。
ここは葦原研究所の地下霊廟。地の奥深くで同胞を弔う場所。苔の生えた空間で灰色の石畳の道が伸び、数多の墓がその奥に並ぶ。空気はどこよりも澄んでいて、人工の光が降り注いでいた。
茉莉也の墓の前で、ペレストロイカは手を合わせた。
「だけど、いつか僕だって死ぬ。それも残酷で、苦しくて、これまでの生を後悔するような」
「……根拠は?」
「わかってるじゃないか。君だってそうだよ」
僕もシンウチも人殺しなんだから、と笑った。
真打は、死体を見て精神的に病むことのできる研究員が羨ましかった。
Яに拾われたわけではない、この研究所に正規の手続きを踏んで就職できたそいつが。恐怖を感じることのできたそいつが。殺しなどしない、一歩も社会の闇に踏み込んでいない、まるっきりの光の存在。
霊廟にいる彼らは違う。何度も命を奪い、死を目の当たりにした。恐怖することなど許されない。
「シンウチはさ、Яに初めて拾われた子どもなんでしょ」
「……知ってたのか」
「うん。でも何歳からなのかは知らない」
「ゼロだよ」
「えっ?」
真打は大きく息を吸い込み、それを漏らすかのように打ち明けた。
「生まれてからすぐ、ここに来た。その後もたくさん子どもはやってきたけど、何人も死んだ」
茉莉也の墓よりずっと奥にある、苔に覆われた墓の群れを見詰めて言う。
「……コインロッカー」
「コインロッカー?」
「ああ。その中に赤ん坊のまま入れられてたんだと。そのまま二十年間、ここにいる。お前や他の奴らとは違って、俺は自分の親が誰かわからない」
「……それは、気の毒だね」
「だからЯが親みてえなもんで。いや、ギグルは本当にЯが親だけど。……もう、生まれてきたときからこうだから、誰かの死を嘆くことができない」
――――……たぶん、自分の死さえも。