表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
176/253

あるまじき、さるまじき2

 更田真打が安名茉莉也の訃報を聞いたのは、彼が亡くなった翌日のことだった。


 彼とペレストロイカが倒れていたのを一般研究員が見つけたという。後者の息はこと切れてはいなかったが、隣にある死体を目の当たりにして精神的ショックを受けたらしい。そしてその研究員は今、中央病院のPT(サイコセラピー)棟にいる。


 同じ種族の生き物でも、その心臓が止まっていれば恐怖の対象になる。


 飛び散った体液か、溢れ出る内臓か、はたまた霊的な何かか。命のないものは総じて恐怖。


「……マリヤはきっと、僕を生かしたかったんだ」


 その恐怖に向き合った者、ペレストロイカがぽつりと呟いた。

 ここは葦原研究所の地下霊廟。地の奥深くで同胞を弔う場所。苔の生えた空間で灰色の石畳の道が伸び、数多の墓がその奥に並ぶ。空気はどこよりも澄んでいて、人工の光が降り注いでいた。


 茉莉也の墓の前で、ペレストロイカは手を合わせた。


「だけど、いつか僕だって死ぬ。それも残酷で、苦しくて、これまでの生を後悔するような」


「……根拠は?」


「わかってるじゃないか。君だってそうだよ」


 僕もシンウチも人殺しなんだから、と笑った。


 真打は、死体を見て精神的に病むことのできる研究員が羨ましかった。

 Яに拾われたわけではない、この研究所に正規の手続きを踏んで就職できたそいつが。恐怖を感じることのできたそいつが。殺しなどしない、一歩も社会の闇に踏み込んでいない、まるっきりの光の存在。


 霊廟にいる彼らは違う。何度も命を奪い、死を目の当たりにした。恐怖することなど許されない。

 

 「シンウチはさ、Яに初めて拾われた子どもなんでしょ」


「……知ってたのか」


「うん。でも何歳からなのかは知らない」


「ゼロだよ」


「えっ?」


 真打は大きく息を吸い込み、それを漏らすかのように打ち明けた。


「生まれてからすぐ、ここに来た。その後もたくさん子どもはやってきたけど、何人も死んだ」


 茉莉也の墓よりずっと奥にある、苔に覆われた墓の群れを見詰めて言う。


「……コインロッカー」


「コインロッカー?」


「ああ。その中に赤ん坊のまま入れられてたんだと。そのまま二十年間、ここにいる。お前や他の奴らとは違って、俺は自分の親が誰かわからない」


「……それは、気の毒だね」


「だからЯが親みてえなもんで。いや、ギグルは本当にЯが親だけど。……もう、生まれてきたときからこうだから、誰かの死を嘆くことができない」


――――……たぶん、自分の死さえも。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ