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精、聖、生7

 覇気は異様なものとなった。もう一つ、またもう一つ御伽を取り込む。

 オレは今、めちゃくちゃ強い。誰にも負けねえ。

 自身の許容を上回る力を手に入れた茉莉也に、先を見据える余裕も必要もなかった。


「殺す……!」


 ボコボコと肉が盛り上がる音がする。茉莉也の背中から腕が生える。


 一本。


 また一本。


 白い腕の群れはまるで羽根のようだった。この異形は美しさの権化。殺戮するためだけの天使。安名茉莉也。


「マリヤ……?」


 スティルトンに縛り上げられたままのペレストロイカが困惑した。同胞が怪物になっている。しかしその姿は畏怖するに値した。恐ろしさを超えるほどに美しい。


 右手に釘だらけの打棒を握り、跳躍。羽根が鈍く羽ばたく。


「うっ……ぐ、ハァッ」


 空中で喀血した。白い体から血の雨が降るようだった。スティルトンはそれを被り、純白の法衣が汚れる。


 少しずつ、命が削られていく。生きるか死ぬかの瀬戸際で、ゆっくりと終焉が近づいてくる。


 ――――……それでも。


 空気を轟かせるほどの力で、敵目がけて武器を下に落とす。その狂った体を全て潰す勢いで。憎しみと怒りを糧にして。


「死、ねぇぇぇぇ……!」



















「…………。









――残念だ」


 ――――……!?


 茉莉也の体を、スティルトンの腕たちがそっと受け止めた。


 そして。


 ボグ、ゴキ、バキリ。


 無数の腕が無数の腕を掴む、四肢と胴体を掴む。そのままありえない方向に捻った。

 骨が折れた、砕けた、臓器と肉に刺さった。


 空中で雁字がんじがらめにされた天使が肉と骨の物体になった。イカロスが墜ちるように、ゆっくりと羽根が消える。胴体だったものが芝生の上にぐちゃりと潰えた。

 地面に赤い溜まりが広がっていく。頭部と思われる肉塊から透明な液体が小川を作った。


「……無理に決まってただろうに。異形になろうが所詮は人間。私たちは本物のバケモノを相手にしてきたんだ、君がいなくなってからもね」


 ――――……さて、


「あとはもうひと、り……、


……?」


 スティルトンの上半身に鈍い痛みが広がった。


 思わず目線を向けると、胸にナイフが突き刺さっていた。


「貴様……!」


 腕に巻かれていたペレストロイカが自身の刃物をなんとか取り出し、彼女へと投げたのだった。奥まで食い込み、瞬く間に衣服が血液に染まっていく。


「迂闊だった……腕にばかり気を取られて。所詮は人間なのに」


 緩んだ腕を取り、さらにナイフを深く突き立てる。


「……死ね。地獄に堕ちろ」


 怪物はどさりと倒れ、やがて冷たくなった体を風に晒すのみだった。


「……マリヤ、」


 ペレストロイカがバラバラに裂かれた同胞に駆け寄った。


「マリヤ、マリヤ、」


「……」


「……」


「……ありがとう」


「ここに来てくれて。僕を慕ってくれて」


「……シンウチとは仲が悪かったけど、」


「いつか仲良しになれると思ってたんだけど。」


「……もうそんな未来は、」


「やって来ないのか」


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