精、聖、生5
噛み潰した御伽は背徳の味がした。じゃりじゃりと砂糖質の嫌な音が茉莉也の脳と耳に響く。
そして直後、体内に泉が湧き出るかのような感覚が生じた。感覚でしか掴めなかったが、この溢れる何かが力そのものなのだろうと直感的に感じ取った。漲るという言葉そのものだった。
それは逆に、それほどの強さを持たねばスティルトンには勝てないという悲しい証拠にもなった。自分の実力じゃ、到底。
「今に見てろ……」
茉莉也は銃弾のような速さでスティルトンに迫った。体ごと。千手をうねらせる彼女は笑いながら、嗤いながら、食虫植物が蟲を喰らうかのようにその腕たちで彼を覆い、包んだ。体ごと。
ギチ、ギチ、と嫌な音がする。中で骨が軋んでいる音だ。茉莉也は千手で出来た部屋で腕の群れを間近で目にした。それらに爪はないのを確認して僅かに安堵する。引っかかれる心配が無用だからだ。
「マリヤ……! 待って、すぐに!」
「いい」
「えっ……」
中から聞こえてきたくぐもった声に、ペレストロイカは驚愕した。いいはずがないのに。
「大丈夫だ」
ばりばりばりと雷のような轟き。
その轟の主は、紛れもない茉莉也だった。彼は部屋を破り、夜叉のような笑みを浮かべている。その右手には杭だらけに打棒が握られており、同様の杭が千手たちに打ち込まれていた。
呼吸することすら許さないかのように繰り出す攻撃。スティルトンはそれをなんとか躱し、または受け止めている。頬に僅かな汗を滲ませながら。
「死ねッ! 怪物! オレは今お前を殺せる! 何が魔法だくだらない!」
茉莉也は罵声を浴びせながら武器を振り回し殴った。その言葉には怒りの表情も見えた。
そして、ようやくスティルトンが口を開く。
「……君が魔法をくだらないと思うのはなぜ? 所長の意志?」
「カンラク……! お前ら――国家管理局がカンラクさんを奪ったんだ! ……魔法なんかで唆して!」
カンラク――久しぶりに聞いた国家管理局長の名。茉莉也の言っていることはわからなかったが、スティルトンにとってそれはどうでもよかった。
そして笑った。
「そうか、君はそれほど憎いんだね。でも残念だ。
――……君は魔法に殺される」
「はっ……?」
がくん、と勢いよく視界が揺れた。茉莉也はその場でよろけ、たたらを踏んだ。
――力が、止まない。
泉が湧くどころか間欠泉の吹き出るような力の漲り方だった。湧出を止めず、茉莉也の体へ血液のように流れ込む。
強すぎる。
強すぎたのだ。スティルトンを倒せるほどの力を持ったが、茉莉也自身がそれを受け止める器たるものではなかった。嫌だ、嫌だ、もうやめてくれ。もう力なんか、ほしくない。
「魔法は奇跡だ。その代償は確実に払わされる。では君の代償は何か? きっとそれは」
――君の、命だ。