精、聖、生4
『聖なる生の成れの果て』
神様が言った
私は何より美しいと
神様が言った
私は誰より美しいと
柵のように唱えた祝詞
誰かが決めた哀しい憲と
真上に伸びた十字架を
杭打つは生の成れの果て
・ ・ ・
――あの日から、安名茉莉也は第二の誕生を遂げた。
以前の彼とは打って変わって、彼の性格から女性らしさはなくなった。むしろ乱暴で狡猾な男になった。
筋肉も発達し、力強さを誇張している。髪型は肩の上で切り、邪魔な横髪は三つに編んで後頭部で結った。
「男女だけでなくもっと多くの性が存在するけど、それは人に決められるものじゃない」、ともЯは言っていた。その言葉にどれほど救われたか、幼いながらにひしひしと感じていた。
だから、Яのために敵を滅することはその恩返し。スティルトンがこれ以上におぞましい姿になったとしても、逃げる理由はどこにもないのだ。
彼を守るためならどんな手でも使う。茉莉也は自身の右手に握られた釘バットを一瞥した。国家管理局の武器だ。だけどЯのためなら、大嫌いな魔法も操ってみせる。
真っ白なバットに、桃色の杭がいくつも打ち付けられていた。それでより攻撃性が上がっているのだろう。前述したとおり、力には自信がある。ここで必ず、潰す。
「……オレが前から殺る。後ろを頼む」
「マリヤがそう言うなら仕方ないね。わかったよ」
ペレストロイカは彼を見て微笑み、共闘の準備をした。
スティルトンの腕の群れが蠢く。その間を風が犇めくように通った。ひゅうひゅうと凍った音がする。
スティルトンは、自分の理性が今どこにあるのかわからなかった。本当に怪物になってしまったのか、それともまだ人間なのか。自身が怪異となるほどの憎悪や責任感がどこから生まれてくるのかも、未だ掴めずにいた。
とにかく今はこいつらを倒したい、という心だけがあった。
ばっさりと空を切る音が鳴った。
茉莉也が彼女目がけてバットを放つ音だった。標的は腹。不意を突けるかと思ったら、虚しく。打棒は易々と手で払われてしまった。
「クソッ……」
圧倒的に不利だということはとうに自覚している。常軌を逸した彼女の武器をどう無効化するか、そもそも可能なのか。考えなければならなかった。
ペレストロイカはナイフをあの手この手で投げ続けているが、ひゅるひゅるという音がするばかりで傷一つ与えられなかった。
――――……どうする。
――――もし、このまま何も出来なかったら。あれを使うことになる。
「…………仕方ない」
これもЯのためだ。
茉莉也はポケットからワイン色の小袋を取り出した。そしてその中身を掴む。
「御伽? ……だったか?」
冬の光をさらさらと反射するそれを、噛み砕いた。自分の体に忌々しき魔法が取り込まれるような感覚だった。しかし、それでも咀嚼を続けた。
――――……今よりも強く、目の前の敵を倒せる力が欲しい。
そして。
その奇跡は受け入れられた。