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精製のための聖戦11

 スティルトンは茉莉也のみを標的にしたまま、彼の殺害を試みた。対する茉莉也は丸腰だった。武器など持っていない。されるがままに殴られ、ギリギリと首を絞められた。死が近づいてくる感覚がした。


 ――――……待てよ。


 走馬灯が見えるか見えないかの狭間で、茉莉也はふと、コアの存在を思い出した。彼のコアは白い髪留めだ。使い勝手がいいから普段から着けていたのだ。ハーフアップにされた髪と同時にそれも揺れる。スティルトンの千手が彼を持ち上げた証拠だった。宙にぶら下がり、茉莉也はひとつの決意をした。


 ――――コイツを使うとは思わなかったがな……。


 その瞬間、白い光が茉莉也を包んだ。

 スティルトンが怯み、彼はその隙を見て自身に絡まる腕を振り払う。


 光が霧散し、茉莉也の様相がはっきりとする。足を大きく広げ、片腕を地面に付けることで体勢を保っていた。そしてもう片方の腕には――真っ白な釘バットが握られていた。


「使いたくなかったが……致し方ねえよなぁ」


 数回咳き込み呼吸を整える。スティルトンと、その後ろにいるペレストロイカも構えていたナイフを下ろし驚愕した。


「なるほどな、魔法が嫌いなくせにその力には縋るのか。中途半端な奴だね」


「命が消えたら嫌えるものさえ嫌えねえだろ。手段なんて選ぶ暇もねえよ」


 茉莉也が薄ら笑いを浮かべ、バットを一瞥する。コアを使った影響で彼の服は戦闘衣装に変わっていた。スティルトンはその様子をただ冷たく眺めていた。


 ざくり、と何かを裂いた。


「悪いけど、君のことは殺すよ。無断で敷地内に入った罰だ」


 ペレストロイカのナイフが、スティルトンの背中の腕一本に突き刺さっていた。


 やがて、刺さった肘の部分がぱっくりと開きだし、ボトリと芝生の地面に落ちた。しかし効果は全く見られず、新しい腕がまた一本生えてくる。ペレストロイカは目を一瞬見開き、衣服に隠し持っているナイフの数を思い出そうとした。


 数多の腕をひるのようにうねらせながら、彼女はゆっくりと振り返りナイフの使い手を睨んだ。赤い瞳がより一層赤く光る。


「……こちらこそ悪いね。二対一のように見えるけど、手数は君たちよりずっと多い」


 かかってこい、と言わんばかりに無数の腕を広げた。千手観音を彷彿とさせる、人ではない何か。その出で立ちに、ペレストロイカの皮膚が粟立った。


「マリヤ。誰かを呼ぼうか?」


「……いや、いい。こいつは俺らだけで仕留める。他の誰かが気づかないうちに」


「僕も同じ意見だ」


 二人は得物を握り、獲物と対峙する。


 冬の寒さは依然としてそこにあった。しかし体温は冷えることを知らずに上がる一方だった。

 広大な庭園が戦場と化した瞬間だった。

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