精製のための聖戦7
先程まであった黒い彫刻の群れがばらばらと崩れ、土に溶けていった。薄荷色だった空も微細な星々も消え、冬の夕暮れが訪れる。
――――……合ってた。
エメンタールは安堵と共に、妙に湧き上がる興奮を覚えた。自分の推理が正しかったのだ。今までのように誰かのお荷物として動くのではなく、自ら考え、成功させた。
嬉しかった。スティルトンがいたとはいえ、明らかな成長がしっかりと存在したのだ。
「月だってことによく気づいたね、ありがとう。君とちゃんと戦ったのは初めてだが、なんだか前より大人に見えたよ」
「ありがとうございます……!」
二人は変身を解き、塔を後にした。黄泉では塔から降りていたが、現実世界ではそこにいたので、自動的に屋上まで移動するのだ。
黄泉が訪れると、現実世界での二人の時は止まったようになる。別世界である黄泉でいくら移動しても、現実では反映されない、ということだ。
「局へ向かおうとしたんだけど、もしかしたら誰かが戦ってるかもって塔に向かったんだ。黄泉に入り込むのは不思議な感覚だったよ。あちら側からやってくるのとは訳が違うようだ」
「どんな感じだったんですか?」
「塔の入り口からエレベーターに上がるまでは普通。屋上まで行くと、コアが光ったんだ。眩しくて目を瞑ってたら、黄泉だったよ」
スティルトンは右手首にある真っ赤な数珠をちらつかせた。これが彼女のコア。エメンタールにも、左手首にある金色の腕輪がある。そこに装飾された桃色の石がコアだ。
「ところで、戻って来た理由って……」
「……そうだね。明日、ギアーズ全員に集まってもらう。みんなにテレパスで伝えておこう」
「もう会えないんじゃないかと思いました……。ロックフォールさんと仲良しだったのは知っていたので」
「彼女を亡くしたのは確かに、悲しかったよ。だけどそれがショックで消えたわけじゃない。私が出来ることを調べて、探していたんだ。……生前の彼女にように」
・・・
その翌日、スティルトンの言っていた通り、博物館にはギアーズのメンバー全員が集まった。
「やあ、久しぶり。みんな。……減ったね、もう四人しかいないのか」
「……」
「まァな」
「……そうね」
この人数に対して博物館は、前よりもずっと広く感じた。閑散とした空気が漂うようだった。
「んで、いきなり戻ったと思ったらボクらを集めて何する気? 今までサボって何してたのさ。ロックフォールが死んで鬱にでもなったか?」
「……亡くなったと言え、パルメザン。私はいいが、彼女を愚弄するのは許さないよ」
スティルトンがパルメザンを冷たい目で睨む。しかし当の本人はまったく悪びれもせずに笑う。
「なんで? 自殺だろ? 馬鹿だよねェ、自分で自分を殺すなんて」
「お前にあの子の何がわかる。彼女は生を終わらせたんじゃない……生を完成させたんだ。ただの堕落とは訳が違う」
「わかった、わかったよ。じゃあ早く話を進めてくれって。HAHA」
チェダーがパルメザンを敵視していた理由が、エメンタールは少し理解できた。相手を煽り苛立たせるのは無意識なのか故意なのかはわからない。しかし、スティルトンほどではないが僅かな怒りを覚えた。
「……仕事を放棄していたのは悪かったよ。でもその代わり、君たちが知っておかなきゃいけないことを調べていた。ずっと。」
「知っておかなきゃいけない……?」
「なあにそれ。早く話してみなさいよ」
「ラボ――葦原研究所についてだ」