精製のための聖戦6
エメンタール、と声の主は彼女の背後に飛び込み、殴りかかる虚を食い止めた。そして、跡形もなく壊した。
「……危なかった。大丈夫?」
エメンタールは振り返り、恩人の姿を目の当たりにした。ああ、彼女は、
「スティルトンさん……!」
大きな袈裟を着て、背中から白い無数の手。彼女自身の手には、真っ赤なチャクラムが握られている。
突然消えてしまったスティルトンが、戻って来た。
「久しぶりだね」
「あの……どうして今まで……」
はっ、とエメンタールは思わず口を両手で塞いだ。ゴーダに先日言われたばかりなのに。「どうして」と相手の事情に付け込んでしまう。自分の悪い癖かもしれない。
しかし、当の本人は彼女の言葉に機嫌を損ねた様子もなく、微笑んで答えた。
「ようやく、ここへ戻ってくる理由ができたんだ。詳しい話はあとで……。今はとりあえず、この状況を打破しよう」
「……はい!」
スティルトンは岩の像たちを見渡し、考える。
「君はこれを見てどう思う?」
「はい……。この像のどれかが、虚の本体だと思います」
「私も同じだ。そして、本物には必ずその印が存在する……」
「そうだと思います。ただ、それが何なのかわからないんです」
「さっきのやつは偽物……。つまり、動いているからといって本物とは限らないね」
二人は思わず、空を仰いでしまった。淡い緑色の空に、無数の黒い星がぷつぷつと広がっている。
――――あれ……。
エメンタールは、この空に違和感を覚えた。目を凝らすが、それは消えない。……もしかして。
「スティルトンさん……この空、何かが足りないと思うんです」
「ん? そうかな? 星がたくさん……――あ!」
「月がないんです。いつもは、でかでかと浮かんでいるのに」
ぽっかりと空に穴が空いたような、あの月が見あたらないのだ。針でつついたように小さな星屑たちがあるのみだった。
「私の憶測ですけど……何か月に関連する像を探して、壊せばいいと思うんです。空に月は必要……だから、欠かせないものを大事に守ってるんじゃないかな、と」
「……異論はない。わかった、気を付けて探そう」
「はい」
二人は彫刻を一つ一つ見詰めながら、目標を探した。
蛇に絡まれた男の像、腕を失くした女の像、翼の生えた頭のない像……。様々で、独創的だった。
「! スティルトンさん! これ!」
「…………これだ……」
男と女が対になり、それぞれの片腕で小さな月を包んでいた。手のひらを添え、愛しさを含んだ瞳でそれを見詰めている。美しい作品だった。しかし、やはり漆黒のみだった。
「間違いないです。今まで見た中で、月があるのはこれだけ……」
「これを壊すのは少し気が引けるが……やろう」
「はい」
エメンタールが鎌を握り、スティルトンが千手で像を囲む。
そして。
がら、ぐらぐら、がらがらがらが、ら。
――――――!!!!!!congratulation!!!!!!――――――