精製のための聖戦5
コアに意識を集中させると、桃色の光がエメンタールを包んだ。光が消えると、新しい戦闘衣装になっている。
桃色のスーツをアレンジしたような形で、長いズボンに少し高いブーツ。以前のスカートよりは動きやすくなった気がする。
空は既に黄泉の時間が訪れており、薄荷色の空間となった。塔の他には何もなく、更地が広がっている。
――ぼこり。
「……?」
ぼこぼこと、地面から何かが盛り上がっていく。水面の泡のようにぶくぶくと土が湧き上がり、黒い何かが出来上がった。
人だった。
正確には、人型の虚。草木一つ生えていなかった黒い地面から、一八〇センチほどの鎧が積み上がった。
ただ、それの材質はまるで石のようだった。石像のように滑らかな曲線を施されており、美しい男の彫刻作品と見紛うほどだ。
その美しさとは反対に、別の地面から武骨な岩がぼこぼこと音を立てて生えてくる。まっさらだった黄泉は、一瞬のうちに険しい岩場となった。
エメンタールは塔を降り、彫刻の前に立った。今のところ、虚の本体として認識できるのはこれだけだ。鎌を大きく振りかぶり、壊す。
「っ……よいしょっ……!」
がらがらという音が響いた。岩たちがやまびこのようにその音を反射し合い、果てまで続いた。
彫刻は卵の殻のようにあっけなく壊れ、破片が落ちた。
しかし、何も変わらない。
――ぼこり。ぼこ、ぼこ。
別の方から、先程と似たような彫像が土から生まれた。それも複数。姿やポーズは様々で、まるで何かの美術展のようだった。ただそこに色はない。虚構の群れだ。
「じゃあ……もしかして今のは……」
“はずれ”。
そう考えるのが妥当だった。この像たちの中から、たった一つの本体を壊さなければならない。エメンタールはそれをすぐに悟った。
まずは一番近くにある虚を壊すことにした。女の形をし、聖火のようなものを持っている。足にはごつごつとした小さな岩が連なっていた。
難なくそれは崩壊した。しかし、偽物だった。ぼこり、と別の像が出現する。
もう一つ、さらにもう一つと鎌を振り回しているが、終わらない。はずれを引けば、外した数以上に別のものが出てくる。外すほどあたりを見つけるのが困難になっていくのだ。
「待てよ……」
エメンタールは一度その手を止めた。彫刻を見渡し、顎に指を添える。
闇雲に倒していても埒が明かない。このままでは、己の体力が限界になることなど想像に難くなかった。
――――何か、何か目印になるものがあるはず……!
エメンタールは二列に並ぶ像たちの間を歩き、考える。一つ一つ、まじまじと見つめた。
――背後から像に殴られることも知らずに。
「えっ……?」
「エメンタール!」