精製のための聖戦4
博物館には、ゴーダとパルメザンが残っていた。窓のない地下のため、今が夕刻なのかそうでないのかはわからない。
「言い過ぎじゃねーの? エメンタール何も悪くないのに」
「あなたに言われたくないわね。いつもいじめてるのはあなたでしょう」
「ハハハ、確かに」
パルメザンは生クリームの盛られたドリンクを飲んだ。シナモンの香りがふわりと漂う。
ストローを離し、ゴーダを見た。パルメザンも、彼女がなぜカマンベールを殺害したのかは知らない。ただ、確信が持てるのは……。
「……キミ、暴力団か何かだろ?」
「なぜ?」
「なんとなくだけど? 思えばみんな、一癖も二癖もあって、バタバタ死んで。虚に負けたならまだわかる。だけどそんなヤツ一人もいない」
「何が言いたいのかわからないわ」
「裏組織がその名の通り裏でバチバチやってたんじゃねーかってこと。あのラボですらあれだ。他がいたっておかしくない」
誤魔化す意味もないだろうな、とゴーダは思った。
「まあ確かに、ロックフォールは指扇の人間だったわね。あの髪と目の色は有名だもの」
「ああ、あの軍の」
「正確には傭兵ね。大昔に軍隊だっただけ」
「ボクはそういうのあんまり詳しくないんだ、裏っておっかねーし」
「あなたみたいな人こそが裏の人間っぽいけどね」
「いや、本当にボクはただの一般人だってば。……っていうか、ホントに暴力団なんだなァ。否定してねーし」
「……まあね」
もう一度、ごくりとパルメザンがドリンクを飲む。そしてドーナツを頬張った。
「そういえば」ゴーダが出口の方を見詰め、呟いた。「スティルトンはどうしてるのかしらね」
「さあ」
・・・
翌日、当番はエメンタールただ一人だった。
一人の寂しさと緊張が止まない。しかし五味うずらの助けがあるぶん、他のメンバーよりは安全だ。
それでも、迷惑をかけるわけにはいかない。もし虚がやってきたら、どうやって倒そう?
「……はあ」
国家管理局監視塔・西の屋上。その地面に座り込んだ。
ギアーズに入ったばかりだったときよりも、武器の扱いは上達した。気がする。最初は重かったが、今では鎌を片手で振り回すこともできる。心なしか、腕の筋肉は以前より逞しくなったように感じた。
――――……強くなりたい。
みんな強かった。ゴーダも、カマンベールも、パルメザンも、チェダーも、みんな。心から尊敬しているのは確かだ。
そのはずなのに、僅かな嫉妬も渦巻いた。「記憶があるだけでどうして」なんて思う夜もあった。
だから逆に、今日が自分ただ一人だというのは真の実力を試すことのできる良い機会なのかもしれない。不安を押し込み、無理やりそう考えることにした。
――――warning!――――warning!!――――warning!!!――――
「え!? えっ、はや……!」
どくどくと心臓が脈打つ中、エメンタールは深呼吸をした。