精製のための聖戦3
「あれ……服が変わってる」
エメンタールは鏡を前にして呟いた。以前の戦闘衣装と、大きな変化を見せていたのだった。
スカートからパンツスタイルになり、全体的にボーイッシュな雰囲気になった。短く切った髪とよく合っている。
「衣装はコアによって作られます。つまり、心境に大きな変化があればそれも変わるんですよ」
「メンテナンスしてみて良かったです」、五味うずらが言った。
ここは国家管理局の地下施設、博物館。そこにはスティルトンを除くギアーズ全員が集結している。エメンタール、ゴーダ、パルメザン。
「あれ……?」エメンタールは辺りを見渡して首を傾げた。「カマンベールちゃんは?」
「私が殺したわよ」
「あっ、ゴーダさん! 私が訃報を知らせる役目なのに!」
――――殺した……?
前までのように、「亡くなった」ではなく、「殺した」?
「なんで……どういうこと……。もしかしてあのとき!」
「そう、あのとき。あなたがあの子と当番で、私が後からやって来たとき。
エメンタール、教えてあげるわ。この世にはどうしても許せない人間がいるのよ。『復讐なんて意味がない』なんていう言葉さえ響かないほどね」
パルメザンは二人のやり取りを見て小さく笑い、ドーナツを頬張った。うずらは不満ありげにゴーダを見詰めている。
館内は空調が効いていて暖かいはずなのに、エメンタールの背筋は凍った。それとは反対に頭は熱く、静かに怒っているようだった。
「どうして……なんでそんなことするんですか! 仲間ですよね!?」
「ええ、私もそのつもりで接してたわ。だけど途中で気づいたの、私の大事な人を殺した犯人だって。……あなた、ご両親はいるの?」
「いえ……」
「ならわかるわよね? その気持ちが。『どうして、なんで』……とか、私を責めるのも大概にして。みんながみんな、あなたと同じ目線で世の中を見てるわけじゃないの」
エメンタールはその言葉に打ち砕かれた。これ以上、彼女の事情を聞くなんて出来なかった。確かにゴーダの言うとおりだった。
カマンベールが消えた悲しみは、エメンタール一人で抱え込まざるを得なかった。
なぜカマンベールはゴーダの仲間を殺したのか、復讐を遂げたゴーダが捕まらず今もなおここにいる理由は、二人は一体何者なのか……。知りたいことは山ほどあったが、問い詰めたらゴーダが怒るに決まっているので我慢した。
「あの……うずらちゃん。こんなにギアーズが減っちゃって、大丈夫なの?」
「おそらく、当番は二人から一人になると思います。もう年も明けましたし、一人で戦える力をゴーダさんとパルメザンさんは持っていますので。……あっ、エメンタールさんは、どんなことがあっても私が助けますので、ご安心を!」
「……」エメンタールは己の非力さに落胆し、俯いた。「……メンバーを増やすとか、そういうことはできないの?」
「ああ、すみません。増員は局の規則のためできないんです。一年の任期が終わるまで、増えることはありません」
「どうして?」
「ええっと……」
「あっ……ごめんなさい。さっきゴーダさんに言われたばっかりなのに……」
「いえいえ、お気になさらず。落ち込まないでください! あ、もう集まりは終わりなんで、皆さんゆっくり休んでくださいね」