死神のうまれた日3
『黄金の死神は何を思う』
ぱたりと誰かの生命が倒れた
わたしは命を食べ
生きて
生きて
生きて
ねえ
わたしが空洞を抱えてるなんて
嘘だよね
……嘘だよね
・ ・ ・
「精神に付け込もうとしたんですが……よほど私が憎いんですねえ」
「そんな言葉一つで……私の気持ちが変わるわけないでしょう!」
がきり、がきりと哀しい刃の音がする。
「馬鹿馬鹿しいですね……。
あなたは今まで何人の人を殺した!? その命の数は、あなたのお父さんの命よりずっと多いのに! それに比べたら、たった一つじゃない!」
「数じゃないのよ……ッ! 確かに私も私の父さんも殺されて仕方のない人間よ! でも……それでも私は……!」
お互いの体の至るところに、浅い傷が刻まれる。布は裂け、小さな赤い珠が舞った。間を詰める度に吐息が交じり、眼光が稲妻のように走る。
「都合が良すぎるンですよ……命は平等! 私の命も、あなたの命も! 家族でさえも! ちょっと傷つければ消えちゃうものに、何をそんな執着を……!」
――――……可哀想に。
カルロは少し、環に同情した。侮蔑が含まれてなどいない。本当の意味で、哀れだ。
きっと彼女は、カルロの気持ちを全く理解できないのだろう。家族を大事に想う愛だけではない。友愛も、恋愛も、彼女の辞書にはないのだ。なぜなら彼女には人間の命全てが、「同じ」に見えているから。
「なんだよその眼は……! 殺しは私の全てだ! 今ここで殺されるなんてありえないんですよ! 『死神』が死ぬわけないんです!」
ボロボロになってもなお、環はその力を増す。強い生命力を可視化するかのようにカルロを攻撃した。
「死神……?」
カルロは一度冷静さを取り戻した。逆に環には謎の焦燥感が現れた。それでも、カルロの復讐心が消えることはない。環もまた、自身の存在意義を否定などしない。
「そうです! 私は他人の死を見届けるだけの死神……! 表も裏も! 他人の死が私の生! マフィアの分際が邪魔をするなァ!」
「呆れるわね……!」
このまま刃を打ち付けあっていてはどちらかが、もしくはどちらも燃料切れになる。回復のために御伽を使う余裕すらない。
より確実に環を殺すには。カルロは攻防しながらも思考を巡らす。感情のままに殺すために、理性を働かせた。
――――土が水で柔らかい……。もし滑ったら終わりね……。
「また考え事ですかァ? ほらっ!」
「ぐっ……!」
ばちゃり、と大きく泥水が跳ねた。カルロが地面に倒れたからだった。
環の人間らしからぬ力で押され、足を滑らせてしまったのだ。服に水が染みわたる感覚が這い寄ってくる。
環はそんな彼女を見下ろしながらゆっくりと近づいた。上機嫌な様子で、両手の剣をくるくると回して遊びながら。
「あは、は、あははは、」
ぴちゃぴちゃと死神の足音。
ぴちゃ、
ぴちゃ。
「……死神、ね」
「ええ、そうです。ずっと……ずーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっと前からそう呼ばれてきました。
でも良いんです……死神は人の命を刈るのが仕事……お仕事なんですからぁ! だからあなたもここで…………死ね」
「嫌よ」
ぐりんっっ、