死神のうまれた日2
世界が夜に差し掛かり、紺と橙の空が交り合った。冬の澄んだ空が、より寒さを感じさせる。
ふわり、ふわりと、白いなにかが舞い降りた。
――――雪……。
カルロは自身の鉤爪を振り回しながら、地面に溶けるそれを瞥見した。水を多く含んだ雪だった。白く見えるのは、ビルの電灯が織りなす光を反射するからだろう。
まるで雨のような、濡れた綿に似た雪が降る。
鉤爪と双剣がぶつかり合う。刃と刃が鈍くギリギリと音を立て、そして離れる。冷たい刃に落ちる雪は溶けずに残る。
――――……ああ、お父さんもきっとこんな夜に亡くなったのだろう。雨か雪かもわからない、冬の暮れ。
「何を考えてるんですか? そんな余裕があるんです……ねッ!」
キン、と尖った金属音が響いた。カルロは剣を間一髪で受け止めたが、その反動で強く押されてしまう。片足に力を込め、体勢が崩れるのを防いだ。水と雪の混じった土がブーツの底にまとわりつく。
「……余裕なんてないわよ。あなたが死ぬのを見届けない限りね!」
金属音は止まない。二人の瞳に、刃に反射した光が映る。カルロの瞳は白い。そして環の瞳は冷たいほどに黒い。まるで二人は元から相対する者だったと運命づけられているように見えた。
環の力はその見た目に反して膨大だった。カルロとの年の差は五もある。にもかかわらず、彼女と互角に戦っている。カルロは自身の復讐相手が恐ろしく感じた。……だけど、ここで退くわけにはいかない。
「私はあのときからずっと……! お前を倒すためだけに生きてきた!」
「…………。
それであなたのお父さんが満足するでしょうか?」
「……ッ!」
ぶつかり合う刃と刃が止んだ。
呼吸の乱れる音だけが繰り返した。汗の熱さと雪の冷たさが混濁し、不快感が増す。
「復讐なんて、意味がないと思いませんか?
そんなことしたって、あなたのお父さまは帰ってこない。ここまで戦っておいてなんですけど、私たち仲間じゃないですか」
環が武器を投げた。水たまりに落ち、びちゃりと茶色い水滴が跳ねる。そしてにこやかに微笑み、カルロを優しく見つめた。両手を広げ、諭すように。
「……」
「命乞いなんかじゃありません。心から、スパーラさんのことを思って言ってるんです。過去に縛られるのではなくて、未来を見ていきましょうよ。その方がきっと、お父さんも喜ぶはずです」
「……」
「……」
「……。
…………お断りよ」
シャキリ、と布の切れた音が響いた。はらはらと着物の袖が落ちる。
「ッ……あぶな……。はあ……やっぱりだめですか」
環は細い腕でもう一度双剣を拾い、力強く振り回した。