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死神のうまれた日

 幼い頃から、「死神」と呼ばれていた。


「みんなのパパとかママってなんのお仕事してる? わたしは銀行員」


「学校の先生」


「携帯やさん」


「たまきちゃんは?」


「えっと……葬儀屋」


「そうぎや?」


「なにするの?」


「その、死んだ人の、お葬式をするの……」


「…………」


 暖かかった空気が一瞬で凍てついたようだった。小学校の一教室で歓談する少女たちは言葉を失い、一人のクラスメイトを見詰める。

 僅かな静寂のあと、少女が彼女に向かって呟いた。


「……こわい」


「しにがみっていうんでしょ、それ」


「ち、ちがうよ、大事なお仕事だよ……」


「うそつかないで」


 ……。


 ――――……あのとき、叫んででも「嘘じゃない」って言ってればよかったのかな。


 おそらくこの記憶は、小学校低学年のときのものだろう。あのときは、課外授業として製菓工場の見学に行ったあとだった。

 

 言葉の重みを知らない年齢だったのだから仕方ない。それでも当時は、泣きながら家に帰った。しかし両親にそれを悟られるのが嫌で、玄関の扉を開くためだけに無理やり涙を止めた。母の「おかえり」は暖かかったが、傷は癒えなかった。


「環さん、手が止まってるわよ」


「……すみません」


 仮敷島環は、気持ちだけ急いで茶筅を立てた。乱暴に扱ったら、もっと叱られてしまう。畳の上で正座を正し集中する。


 母親の指導のもと、茶道を習っている。他にも、華道や香道、合気道までもやらされた。


 ……殺しのために。


「たくさんの芸があれば、殺しの可能性も広がっていきます。今はわからなくても、きっと後悔しませんわ。意味は後からついてくるものですの」


「はい。お母さま」


 「死神」という言葉は、学校で環の代名詞となった。元から性格が暗く、友達がいなかったため陰口を頻繁に耳にした。そのとき必ず、「死神」と言われるのだ。


 ただ、年を重ねると自分の家が本当に死神だったことを知った。


『環さん。そろそろ教えてもいい頃でしょうから、あなたのおうちのお仕事についてお話ししましょう。……うちは、暗殺業――人を殺すお仕事もやっております』


 それから、今のような芸事や武道を始めた。年齢が上がるにつれて、暗殺の訓練も増えた。小学五年生になった頃には、もう大人と同じ実力をつけていた。母はそれを喜び、「末恐ろしいですわ」と笑いながら、今日の暗殺ノルマを環に手渡した。


 江戸時代から代々継がれた仮敷島家。ある時代を境に、暗殺業のカモフラージュとして葬儀屋も営むようになった。つまり本業は、殺し。


 その血筋も各地におり、今では水面下で「日本一大きい暗殺組織」として名を馳せている。


 中でも環は、幼いながらも一流の暗殺能力を持っていることから「金色こんじき童子どうじ」という異名もついた。金色と言うのは、彼女の髪色からだった。これは遺伝だ。


 彼女はそれを受け入れた。人を殺すことが自身の存在証明だった。暗殺者として生きる自分が誇らしい。殺人に対して恐怖などない、むしろ殺せば殺すほど笑顔になれた気がした。「死神」? 上等だ。



 そんな彼女が、たった一人のイタリアンマフィアと対峙している。


「私はお前を許さない……今ここで殺す。ゴミはさっさと死ねばいい」


「ゴミ……? リーダーを簡単に殺されたくせに。ゴミはどっちでしょう。日本ではあなたの組織のことを『有象無象』って言うんですよ」


 鉤爪が空を切った。


 仕舞われていたはずのそれが、環の前髪を掠る。カルロを睨み、自身も双剣を取り出した。


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