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生命声明11

 星が消え、月が壊れる。あれだけ苦戦していた粟も一瞬で朽ち、灰のように消えた。

 

 黄泉はみるみる内に枯れていく。やがて元の世界が蘇り、エメンタールたちは日常に引き戻された。


「危なかったわね。私が来なかったらどうするつもりだったのよ」


「あ、ありがとうございます……。でも、一体何をしたんですか?」


 変身を解き、エメンタールはゴーダに問うた。彼女は多すぎる粒の中から、たったひとつの本体を見つけ出したのだ。その手がかりだって、もちろんなかったはずなのに。


「魔法で倒すべき虚本体を見つけただけよ。……だいぶ前に教えてもらったの」


「はあ……」


「……で、私は暇でここに来たわけじゃないの。



――……あなたに会いに来たのよ」


 「あなた」、と言ったゴーダの視線の先には、カマンベール。ふらふらと帰ろうとしていた彼女はその足を止め、僅かに振り返った。


「……なんでしょう。局の見張りはもう終わりですか?」


「知らないの? それはもう機械がやるようになったのよ。二度も言わせないで、あなたに用があるの」


「…………そうですか」


「えっ!? えっと、そのー……私もう帰るね! バイバイ!」


 二人が不穏な空気を漂わせたことを察し、エメンタールは逃げるように屋上の扉から帰った。そんな彼女との別れなど気にも留めず、少女たちは睨み合う。


「……仮敷島かりしきしまたまき。あなたの本名でしょう?」


「さあ……どちら様でしょう」


「嘘をつかないで。全部知ってるのよ。


あなたのことも、あなたのおうちのことも、あなたの悪行のことも。人の死を悼んでる裏で人を殺すってどんな気持ちなの?」


「……」


 重い北風が吹いた。ゴーダは挑発しながら笑い、首から涙壺――父の最期を共にした品を取り出した。そしてそれをカマンベールの視線にちらつかせる。「もうとぼけても無駄だぞ」と言わんばかりに。

 彼女の肌に埋められたピアスたちが、西日に照らされ強く光った。


「今言ったらあなたを痛めつけはしないわ。ねえ、私の父親を殺したお仲間は一体誰なの? 教えてごらんなさい」


「…………。



















……ごめんなさい、どちら様ですか?」


「……はっ? ここまでバレててもシラを切るの?」


「違います、私が仮敷島環なのはもう認めますよ。だから、あなたです。あなたは誰なんですか。そしてあなたのお父さんも」


「つまり、どの組織かってこと? スパーラよ、イタリアの」


「……ミラノでおさが亡くなった方々でしょうか。……うん、たぶんそうですね、思い出しました。




私ですよ」


「……!」


 淡々とした調子で話すカマンベールに、ゴーダは怒りを隠しきれなかった。壺をギリギリと力強く握る。


「仲間を擁護してるわけでも、私が組織の捨て駒というわけでもありません。正真正銘、あなたの仇は私です」


「……なぜ、日本の暗殺組織が私たちを敵に回したの」


 ふっ、と環が小さく笑う。


 まるでカルロの言動がおかしいかのように。へらへらと長い前髪を揺らし、漆黒の瞳でカルロを見詰めた。


「理由なんてありませんよ。あのときは依頼が少なかったもんですから、適当にマフィアを潰してたんです。ライバルは少ない方がいい。国が違っても、いつ敵になるかわかりませんからね。


トップが殺されたら、大抵のゴミ共はそこで組織を消すか、この事実を無理に忘れようとする。だって、犯人の目星がつかないんですもの。その状況をつくるために、国内ではなくはるばるイタリアまで来たんですよ。……まあ、旅行も兼ねて?」


「暇つぶしだったの?」


「はい」


「相手には何もされてないのに?」


「はい」


「復讐すらさせないように?」


「はい」


 パリン、とガラスの砕ける音がした。


「……。




















死ねェェエ!!」


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