生命声明7
『傷だらけのヴェンデッタ』
ぷちりと赤が弾けた
ひとつ
またひとつ
呪いを体に刻む
コーヒーの黒を溶かして
かつての惨劇は灰と化して
ゆっくりと夜の帳が下りる
その生命が業だとわかっていても
傷だらけはヴェンデッタに燃える
・ ・ ・
仲間内で起こるであろう争いなどつゆ知らず、エメンタールは冬の白い空を眺める。雲の存在はないようであり、その僅かな濃淡がゆっくりと泳いでいた。
……思えば、昨年の四月からギアーズとして働いているが仲間のことをよく知らない。もちろん、ギアーズ以外でも関わるチェダーは別だ。
この人はこういう性格だ、などといったうっすらとした情報はわかる。しかし、誕生日や出身地のような細かいことはまるで理解していないのだ。確かにメンバー内の個人情報を交換することは推奨されていないが、それもなんだか寂しい。はっきり言うと、親睦を深めたいということだ。
――――……なんて思うの、私だけかな。
苦笑しながら思わずため息をついた。例えば隣にいるメンバー……カマンベールは、そういった馴れ合いに興味がないような様子だった。今日の当番は彼女とエメンタールの二人だが、会話らしい会話もない。
しかし、初めての戦闘で共に戦った――エメンタールはほとんど活躍していないが――のはカマンベールだ。あのときも一言二言交わしたが、特に悪い印象は持たなかった。……ならば。
「ねえ、カマンベールちゃん」
「はい」
「…………」
「……」
「……さ、寒くない?」
「……? ええ」
「あっ……そ、そうだよね!」
己の会話能力の乏しさに絶望した。記憶と共にコミュニケーションスキルも失くしてしまったのかもしれない。まさか元から持ちあわせてない、なんてことは考えたくなかった。初めの頃は難なく話せたのになぜ……。
「……エメンタールさん」
「!? は、はい!」
「お誕生日って……聞いてもいいですか?」
「えっ……」曇っていた顔をわかりやすく晴らした。「もちろん! 私は一月十九日!」
「あっ、結構最近だったんですね。おめでとうございます。それって、ちゃんとした出生日ですか?」
「……? うん……どうかした?」
思い出などの記憶はないが、生年月日や血液型などの明確な情報は消えていなかった。小学校六年分の学習内容も難なく覚えていた上に、円周率も諳んずることもできた。「記憶」というより、体に染みついて取れない別の何かなのだろうとエメンタールは解釈している。
彼女の問いに、カマンベールは声を落としながら伏し目がちに説明した。
「少し考え事をしていたんです。何をもって生まれたとするか、死んだとするか……って」