生命声明4
国家管理局は他の日本の建造物とは一風変わっていた。まるで小さなサグラダファミリアのようだ。カルロは黒いワンピースに身を包み、白い肌を日光から守るように日傘を差しその建物を眺める。
――――……まあ、スペインに行ったことはないけどね。
傘をゆっくりと閉じてから、局の黒い自動ドアの前に立った。その黒は両側に開き、中の様子をだんだんと明らかにしていく。その時間は長いようで短くも感じられた。
「お待ちしておりました、カルロ・スパーラ様! 私は五味うずらと申します!」
「ええ、どうも」
この五味という女は、カルロと同年代程度の少女だった。スーツを着た大人が出てくると思っていたので少々面食らったが、それを顔に出さないというのが優雅な振舞いであろう。
カルロは顔一つ崩さず、この少女に従い、奥の階段を降りていった。
そして、魔法の存在を知った。
これなら父親を生き返らせることができるかもしれない。
……などと思ったが、それは倫理に反する何かでしかないという結論に至った。
――――マフィアが倫理を気にするのも笑えるけど。
ただ、父親の仇を討ちたいという考えは変わらなかった。胸元で光るネックレスは、あのときの壺を首から下げたものだ。これは決して形見などではないが、犯人の生命に終止符を打つための道しるべのように感じたのだ。ギアーズなんて二の次。飽きたらやめてしまえばいい。
――と、思っていたのだが。
晴れた夏真っ只中の日、ゴーダは国家管理局監視塔から日本の街並みを眺めていた。突き刺さるような日光だった。その暑さは、どこか故郷のイタリアを思い出させるものだった。思わず日傘を深める。
隣にいるのは、カマンベール。無口で陰気、というのがゴーダから見た彼女の印象だった。特に話題がないのもなんだか気まずい。
「…………ねえ」
「はい。なんでしょう」
「暇すぎない? あなた、何か面白いものないの?」
唐突に投げかけられた無茶ぶりに、カマンベールは腕を組んだ。「面白いもの……うーん」といったような独り言もすべて聞こえている。
「あっ」
「ん?」
「これなんてどうでしょう。見たことありますか?」
「どれ……
…………!」
同じだった。
ゴーダが身につけている壺と、同じ、
「涙壺っていうんです。名前の通り、涙を入れる壺。面白いでしょう?」
「っ……そうね……!」
カリシキシマ。
その言葉が脳を支配していて、苦しい。
――――だけど確証のない疑いだもの……慎重に。しかしこんな珍しい造詣のものを……。
それからしばらくはカマンベールの話に付き合うこととなるが、内容は一切入ってこなかった。ようやくこの壺の主を見つけられたなんて。
必ず、カリシキシマを地獄に堕とす。
彼女の決意は誰よりも固かった。