生命声明2
そのままカルロは、スパーラファミリーで育った。鼠のような彼女も、それが嘘だったかのように、十六の誕生日を迎えた頃には気高い少女へと変貌を遂げていた。
ただ、彼女には一つ問題があった。
「カルロ……お前また……」
アントニオが最も信頼を置いている古参幹部、リカルド・ロマネッリが呆れ顔でカルロを見る。彼女はロビーの鏡の前でなにやら微笑んでいた。
ゴシックロリィタ調のワンピースを身に纏い、糸のような黒色の髪は縦に二つ巻かれている。ただそれはいつものことで、リカルドの視線は彼女の耳にあった。
「あら、気づいた? また買ったのよ、ピアス」
彼女の耳たぶには大きな穴があいていた。ピアスと言っても黒い輪がはめ込んであるようで、リカルドにとっては理解しがたいものである。
そしてカルロはその穴に黒いリボンを通した。それはするすると、難なく彼女の体をくぐる。きゅっと結ばれ、大きなリボンが耳で揺れだした。
彼女は自身の体に手を加えることが趣味だった。舌、耳、首……若い少女には似つかわしくない金属たちが光る。
だからといって“仕事”に支障が出るわけではないので、誰もカルロを咎めてはいない。むしろマフィアなどと言う存在はこうである方が望ましいのではないかとも感じられた。
「まあ別にいいけどよ……痛くねえの、それ」
「痛いわよ」
「えっ」
リカルドの問いに、カルロは即答した。鏡越しに自身の姿を眺めながら、彼女は淡々と語る。
「痛いから、やるのよ。だけどそれがいいの。心の痛みは永遠だけど、それに比べれば体の痛みなんて一瞬。でもそこが駄目ね、心の痛さを上回らなきゃいけないのに」
「…………この暮らし、やっぱり嫌だったか」
「そんなことないわ、私に殺しはきっと向いてるのよ。本当に感謝しきれない。でも……子どもの頃の記憶はなかなか拭えないものね」
リカルドはこれ以上言葉を話すことができなかった。
子どもの頃――ここへ来る前だろう、そのとき彼女がどんな思いをしていたのかは誰も知らない。
カルロの両親は、ファミリーの持つ酒場で金銭を盗み、始末された。十歳にも満たぬ子どもがいたという情報は買っていた。しかしその家庭は残酷で、彼女はよく生きた方だ。
だからアントニオは殺すことを命じた。そして、カルロを救った。
マフィアらしい残忍なやり方だったが、仕方がなかった。盗みを働いた者がどうなるのか、見せしめも兼ねていたのだろうとリカルドは思った。
その結果、カルロの環境が良くなったかはわからない。体にいくつもの穴を空け、その空虚を自分ではないもので埋める。その繰り返しだった。
それでも、アントニオはもちろん、リカルドや他の構成員が彼女を愛していたのには変わりない。そして彼女も、自分たちを家族だと思ってくれていたらいい。
リカルドの胸に一抹の不安が過ぎった。なぜだかはわからないが、伏し目がちに穴を眺めるカルロを見て、ふと、体が凍ったのだ。まるで、家族が崩れるような。
――――……何を縁起でもないことを。そんなことあるわけねえのに。
そして。
その予感は、的中した。