メモラジック・メメントモリ7
一晩病院で過ごしたあと、そのまま国家管理局に向かった。軽くなった髪にはまだ慣れないが、雪平コトカはそれでも進んだ。温い空気が妙に不安を掻き立てる。
電車に揺られ、人の波を渡りやってきたコトカを、黄土色の教会は迎えた。自動ドアを抜け、そのまま地下の階段を降りる。もう五味うずらは既にそこにいるような気がしたのだ。
壁に取り付けられたライトの列が、コトカが近づくごとに一つずつ点灯した。一つ、また一つと、ぼんやりとした明かりが徐々に鮮明になる。それにつれて、彼女の影も濃さを増した。
「ん……? ああ! エメンタールさん!」
「……え?」
エメンタールは思わず戸惑いの声を漏らした。
地下に到着すると、足音に気づいたのか五味うずらが笑顔で彼女を見た。ただ、そこいるのはうずらだけではないのだ。
「なんで、みんなが……」
地下――博物館には、生き残ったギアーズのメンバー全員がそこに立っていた。……スティルトンを除いて。
「もしかして髪、切りました? いいですねえ、私もしてみたいです! イメチェン!」
「そんなことよりも、なんで、もしかしてみなさんもうずらちゃんに……」
「……そうね。この女に、今何が起こってるのか問いたださないと」
ゴーダが目線を変えずに口を開いた。淡々とした様子だが、その言葉には怒りも含まれているようにも聞こえた。何をしているんだ、自分も同じ目に遭ったら冗談じゃない、と。
「ボクが言いふらしてやったんだよ、なあ?」「そうですね」
パルメザンとカマンベールも、うずらを冷たく睨む。……ああ、やはりみんな怒っているのか。それもそのはずだ、「予期せぬ事態」どころの話ではない。
エメンタールにも、あのときと同じどろりとした黒い感情が流れてきた。二度とあのような凄惨な景色は、見たくもない。呪縛のように体がこわばって仕方がないが、それでも少女を問い詰めた。四人でうずらを取り囲み、尋問のような空気が流れる。
「うずらちゃん……教えてよ。どうしてチェダーちゃんは虚になったの? ねえ」
「……なんでだと、思いますか」
――――……!
「テメェ、質問に質問で返すとか頭わりーんじゃないの? 糖分そのまま脳にブチ込んでやろうか」
「待ってパルメザンさん」
なぜ。
エメンタールは、自分がその答えを既に知っていると悟った。病院で見た乙の記憶を辿る。そう、彼女の最期は……。
「魔力指数……」
「正解です。魔力指数とは、そのひとの個性や人生そのもの。未来で埋め合わせをすればいいから、少し減るぶんには問題ありません。しかしゼロになったら取り返しがつきません。死にます。
ただ、それだけではあのような異形にはなることはできないんです。
みなさん、『メメントモリ』という言葉をご存知ですか?」