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空虚で満たす8

 淡い緑色の空に、黒い星が瞬いた。終焉に似た、生と死の狭間だ。

 月はそれらを眺めるように暗くぽっかりと浮かび、美しい模様が刻まれている。


 束の間の静寂が、不安を掻き立てる。怪奇と面するというのはそういうことだ。

 死はいつだって、そこに寄り添い少女を見据えている。か細い呼吸と生命線を、いつ切ってやろうかと。その先はきっと、泡沫に沈むような感覚が訪れるはずだ。


 しかし、少女たちは抗う。ごく小さな生命だとしても、ここで死ぬことを否定しなくてはならない。


 エメンタールは呼吸を整えた。既に戦闘衣装は身につけている。桃色のスカートがふわりと揺れた。それとは対称的に、その手に握られた大鎌は微動だにしなかった。


 轟。



 星が遊び、月が震えた。

 脅威が迫る。


 ――――うろだ。


 月を始点に、それは大きさを増した。近づいているのだ。やがて、それは静止した。


 甲冑のような黒の瓦礫を身に纏い、首部分からはマントがたなびいている。まるでサイドテールのようだ。

 細い腕に、それとは釣り合いの取れていないほどがっちりとしたガントレット。右手には、大きな漆黒のハンマーが握られている。


 虚がハンマーを横一文字に振った。それに応じて突風が発生する。エメンタールは思わず目を瞑った。髪が激しく揺れた。


 そして、目を見開き、敵を見た。穴をあけるかのように、じっと。


「…………」



 妙に、妙に――…………

























 見覚えがあるのだ。



「エメンタール、キミは奴の脚を狙ってくれ。僕はあのハンマーを、」「待って」



「……ハァ? 待つって、何を」


「ごめんなさい。しばらく、あの虚を……」


「……」


 サイドテール、ハンマー……。この異形は、未だに武器を振り続けている。その度に、風が空を切った。見えない波動が、次々と。

 しかしその中に、微かな声が聞こえる。エメンタールの心臓が速まった。いや、まさか、まさかそんなことは……。



 ――……レナイ。


「――――!」


 エメンタールは耳に全ての集中を注いだ。訝しげに見詰めるパルメザンを無視して、虚の声を。

 虚が言葉を話すのは、今回が初めてではない。それなのに、聞かずにはいられなかった。



 ――……レナイ。


 ――――……ブレナイ。


『……ヤブレナイ……!』


 どくり、と心臓が跳ね上がった。そうだ、やっぱりそうだ。でもどうして……!


「オイ、エメンタール。大丈夫か? 顔色悪いぞ」


「虚じゃない……これは、虚じゃない……!」


 風の中、エメンタールは叫んだ。

 疑問と不安が脳から溢れそうだった。そして絶望が、彼女を縛る。



「乙ちゃんだ…………」

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