表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
127/253

空虚で満たす5

 無機質なビルの狭間に聳え立つ国家管理局を見上げた。この茅色の教会は威厳と、どこか物寂しさを醸している。

 重厚な装飾を重苦しそうに身につけながら佇むそれは、エメンタールの始まりを導いた場所だ。そのはずなのに、今はとてつもない脅威に見えた。五味いつみうずらが、私の記憶を奪った。この事実がある限り、国家管理局が敵としか映らないのだった。


 エメンタールはチェダーに関する記憶を奪われた。今では鮮明に思い出せる。なぜかパルメザンと彼女が戦っていたのだ。

 そこにエメンタールが駆け付けた。しかしそのときにはパルメザンは気絶し、チェダーは一人傷だらけで立ちすくんでいた。

 チェダーを呼びかけたが、彼女はそのまま黒い何かに包まれて……。うずらがいつの間にか。そしてうずらは御伽オトギを噛み、その魔法でエメンタールの記憶を消したのだ。


 ここまで経緯がわかっても、その意図がわからない。それを解明すべく、国家管理局に出向いたのだ。

 

 木製の自動ドアを抜け、ホール正面にあるエレバーターに乗る。総務課に彼女はいるはずだ。そこに向かい、問い詰める。


 柔らかな電子音が鳴り、「総務課」の文字がオレンジ色に燈った。

 扉が開くと、無機質なデスクとモニターが立ち並んでいた。灰色の絨毯が局員の慌ただしい足音を吸収しているが、それでもどこかでは何かしらの機械音や電子音が響いている。


 デスクはガラス製のパーテーションで仕切られていて、キーボードの打つ音が絶えない。忙しなく働いているが、定時になればここは一気にさびれた空間になってしまうのだろう。

 局員はエメンタールを見やり、「なんでこんなところに子どもが」といった表情をした。しかし彼女が五味うずらのいるデスクへ向かっているとわかると、「ああ、地下の子か」といったように視線を落とすのだった。


 うずらはデスクの横の人影に気づき、目を丸くした。「あれ、エメンタールさん? どうしたんですかこんなところに。今日はあなたお休みですけど……」


「惚けないで。うずらちゃん……私の記憶、消したでしょ」


 それを聞いた彼女は、一瞬眉をひくつかせた。しかしその後、諦念のような表情でエメンタールを見詰めた。「ああ、やっぱりね」とでも言いたげだ。


「やっぱり気づいちゃいましたか……。不完全すぎましたね、付け焼き刃にもほどがあった。



ここで話すのもなんですし、私たちの地下でお話ししましょう」


「そこで話して、一体何になるの? 私に何か得すること?」


「……もちろん」


 エレベーターを降りる。小さな箱の中、うずらとエメンタールの二人しかいなかったが、そこに会話は一切なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ