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やぶれない12

 黒い豪雨が轟き、地面に濁流をつくった。鎧の傘に雨粒がぶつかり、ばらばらと弾かれる。

 チェダーは虚を目の前にしても表情を変えなかった。そして静かに、口を開く。


「あたしに……やらせてくれないか」


「……」「……」


 彼女が纏う空色の光はより一層強く輝いた。武器であるハンマーの柄を強く握り、敵との距離を確認する。


「そこまで言うなら……」「面倒な奴ね」


 二言聞いたあと、チェダーはもう一度御伽を喰う。飛行するためだ。塔の屋上を蹴り、体を宙に浮かせた。空中を走るように移動し、敵を相対する。

 虚の全長は彼女の身長を二倍した程度だった。そこまで大きくないが、黒い雲に乗り浮遊しているためそれがいいのか悪いのかはわからない。


 後ろからハンマーで後頭部を殴った。鎧の破片がぽろぽろと散ったが、虚は倒れない。黒い瓦礫が黒い水たまりに吸い込まれていった。

 ならば、とチェダーは敵の周りをハンマーで打ち続けた。肩、腕、胴体、脚。その度に破片群れが下へと落ちていく。ダメージを与えているには違いないのだが、致命傷で討つことができない。


「じゃあ何? 顔面でも叩けばいいの……?」


 虚から少し離れ、助走の距離をとった。空色の閃光が黒い虚構へ近づく。

 

 縦に腕を最大限に伸ばし、ハンマーを大きく振りかぶった。それは虚の眼前へと――――

 


 



 びゅお。


「――――! うわぁっ!」


 吹き飛ばされた。


 虚が手に持っていた黒い傘……虚はそれを真一文字に振り、風を起こしたのだ。


 空気を掻き分けるような音と、大粒の雨が彼女を覆うバリアにぶつかる音。銃撃戦の流れ弾に当たったような感覚だった。

 槍のようにチェダーは塔まで飛ばされる。かろうじて屋上に足をつけることができた。濡れた土が轍のようにめりめりと盛り上がった。


 しかし、それだけでは終わらない。


 傘は、チェダーを追うように猛スピードで投げられていた。今度は、彼女の眼前に虚の武器が迫る。あの攻撃を受ければ、彼女のバリアなどガラスの如く破れてしまう。

 着地することしか頭になかったチェダーに避ける余裕などない。


「っ……ハァ、間に合った」


「……! お前……!」


 傍観していたゴーダが、その鉤爪で傘を捕らえた。それは一気に速度を落とし、力なく地面に打ちつけられる。


「よいっ……しょっと!」


 ばら、がらがらがらがら、


 エメンタールが鎌で傘を壊した。灰のように虚は消え、雨が止む。


 ――――――!!!!!!congratulation!!!!!!――――――


「…………」


「あなたにやらせるとは言ったけど、私が何もしないとは言ってないわ。というか、むしろ感謝しなさいよね」


「……くそっ」


 その場に座り込んでいたチェダーが拳で地面を力任せに叩いた。微量の土が跳ねる。


「チェダーちゃん、“困難は分割せよ”だよ!」


「なにそれ」



 ――――……ほんと、なにそれ。



 ――――強くなきゃ、意味ないのに。


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