やぶれない11
〈育児日記14〉
私が今取り組んでいるプロジェクトというのは、国家管理局と合同で立ち上げたものだ。
どうやら現代は長年悩まされた少子高齢化の影響で、働き手不足なのだそうだ。AIだって発達こそはしたが、なんでもできるわけじゃない。ほら、先生とか。子どもの「わからない」をロボットで解決するのは確かに無理がある……。
コトカだって、五年生になった今でも「なんで」「どうして」って私に聞いてくる。だけど仕事柄、科学的な質問に対してはっきりと答えてしまう。「どうして空は青いのか」なんて聞かれたときに光の粒子や波長について長々と説明したら「もういい」と言われてしまった。なんだ、その……難しいな……。嘘を教えるわけにもいかないし……。
この日記の初めのほうでも、私はコトカの質問に答えていたらしい。当時の私はファンタジックな回答ができていた……。この差はなんなのか!
もー! 空なんか黄色でも緑にでもなってればいいのに!
・ ・ ・
シャリ、と御伽の割れる音。その上では、薄荷色の夜空。警報は既に鳴ったあと。チェダーは戦闘衣装を纏い、その体の攻撃力を魔法で上昇させた。薄い青色の光が彼女を柔く包んだ。
チェダーの他に、エメンタールとゴーダ。その二人も揃って戦闘態勢に入る。
――――いつでも来い……。秒で倒してやる。
黒い星があちこちに瞬く。空一杯に広がったそれから、ぽたりぽたりと水滴が落ちてきた。その露も、黒い。
真っ黒な雨が降り注いだ。
――――! 黒い水……まずい。
チェダーは御伽を喰った。その途端、三人にバリアがつくられた。シャボン玉のような空気膜が、彼女たちを一人ずつ覆う。その中には雨粒が入ってこない、バリアにぶつかった水滴がそのまま下に伝った。
「たぶん、この雨は危ない。前にも似たような虚が出てきたんだ」
「! そうなんだ……ありがとう!」
本当はゴーダまで守る必要はなかったが、そうしないとエメンタールは怒っただろう。「どうして仲間外れにするの」と。
「仕方なくだぞ、お前のためじゃない」と言いたげにチェダーはゴーダを睨んだが、ゴーダは気づきさえしなかった。「やるわね」と、だけこちらに呟く。
「偉そうにしやがって……あたしが倒すから、二人はそこにいて」
「えっ……いやいや! 私たちも行くって! ね、ゴーダさん!」「そうよ、なんのための三人体制なの?」
「あたし一人で平気……足手まといっ」途中で言いかけ、エメンタールの不安げな顔をちらりと見やった。「……じゃないけど! ドーピング、したから」
「ドーピング?」
ゴーダが眉をひそめチェダーをじろじろと見つめた。そしてそのあと、取り付けられた武器――爪から伸びた長く鋭利な刃で彼女の体を指差す。「……特に変わったところはないけど。あっ、光?」
「そうだよ……。――あっ」
一部の雨粒が集まり、鎧のように硬く変化した。横幅の長い人型の虚は、同じ鎧で出来た傘を開く。開くと同時にばさりと音がなり、一瞬の風を起こした。
雨露の虚である。