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ハンムラビも鼻で笑うレベル2

「――――……これが、魔法…………?」

 

 半透明なピンク色の小さな欠片をつまみながら、雪平コトカは呟いた。

 スウェード生地の布でできた葡萄色の小さな巾着袋の中に、青だったり白だったり、色とりどりのそれがあった。


 五味うずらが全員に説明を始める。

「この琥珀糖のような欠片――『御伽オトギ』によって魔法を使うことができます! やり方は簡単! この欠片を食べて念じるだけ! ――でもでも、このままじゃあなた達はまだ魔法は使えません。ちょっとした儀式をしましょう」


 カリ、とうずらが御伽を噛む音がした。淡い緑色の光が博物館ミュージアムを包む。うずらの左手のひらには、オレンジ色の魔法陣が浮かんでいる。


 ふわふわと髪が揺れる。眩しくて、目がちかちかする。薄荷の中の橙がいっそう鮮やかに、あるかないかもわからなかった影が濃くなる。そんな中、眼帯の少女は微笑む。まるで天使のように。何か素敵なことが始まるかのように。


 ……風がゆっくりと止んだ。


「――――よし、終わりましたよ。どうですか? 何か変わってませんか?」


 ――――あ。


 左手首に、金色の腕輪が付いている。それはピンク色の大きな石で装飾されていた。


「今、腕輪だったり、カチューシャだったり、何らかのアクセサリーが付きましたよね? これで魔法が使えます。というのも、その大きな石が『コア』。あなた達の魂を具現化したものです。鏡のようにね。これに意識を集中させれば、ウロと戦うための戦闘衣装にだって着替えられます。すごいでしょ!」


 エメンタールのコアは光を反射し、ちらちらと光っている。


「それでは! 今からちっちゃい石を渡すので、それを何か別のものに変えてみてください。なんでもいいですよ! お菓子でも、ぬいぐるみでも!」



 渡された小石は、本当にただの小石。どこにでもある、隕石の破片だ。何に変えよう?


 ――――そうだなあ。


 ――――真っ赤な苺がのった、ナポレオンパイ。


 御伽を口に含む。砂糖でコーティングされたような表面がカリ、と割れた。中は寒天のようなゼリー状のものが優しい甘みで舌を包んだ。


 小石がナポレオンパイに変わった。

 長方形のミルフィーユ生地が生クリームと苺を挟んだ二層のケーキになっており、デコレーションはたくさんの苺が乗っかっている。苺のコーティングゼリーがつやつやと輝いていて、まるで宝石のようだ。それも宝石店の店頭に並んでいるような、礼儀正しいカラットの枠にはめられたものではない。海賊がようやく見つけた、夢も希望も一緒に詰まっている輝きの結晶のような。


 この輝きの同じように、自身が身につけた魔法は、御伽は、きっと希望へ導いてくれるのだと信じた。何もかもが変わる。コトカの生活、不安、自信。そして記憶さえも取り戻してくれる、小さな期待。


「ウーン、一斉に魔法を使ったから今日は絶対すぐに来るなぁー。誰に任せよう。ソウルネーム順でいいかなぁー。と、なるとエメンタールとカマンベール…………よし」


 少年少女の、思い思いの希望たちが博物館に溢れる中、五味うずらは最後の宣言をした。


「――それではみなさん! この国を精一杯守りましょう! 魔法は世界を救う! その決意表明として、配った資料のもう一枚、ギアーズの掟を音読しましょう。エビバディセイッ!」



 わたしたちは、にほんのためにぜんしんぜんれいでまほうをつかいます



 わたしたちは、かならずこのひみつをまもりぬきます



 わたしたちは、いかなるばあいでもウロのしゅうらいにめをひからせ、そのそんざいをしょうめつさせます



 わたしたちは、わたしたちのそんざいをけそうとするものにたいしては、ようしゃしません



 


 それではみなさん、どうぞ、よろしく



 ギアーズ‐【ぎあーず】

 

 国家管理局が組織した機密部隊。それ以上でも、それ以下でもない。


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