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やぶれない7

「……これで全員か」


「みたいだねえ」



 地下駐車場で、二人の青年が会話をする。一人は裾の焦げた白衣を羽織り、もう一人は黒い服の布地に真っ赤な血を染みこませている。右手に握られたナイフも同様に、鮮血で濡れて妖しく光っていた。


 葦原あしわら研究所が抱える暗殺集団の構成員、更田さらだ真打しんうちとペレストロイカだ。

 

「なかなか手強かったねえ! さすが僕らを嗅ぎまわっていただけある」


「ここだけじゃない……まだ潰すべき組織ザコは大勢ある」


「例えば? 仮敷島かりしきしまとか?」


「そこは研究機関(俺ら)とは別物だろ。他の研究所もそうだし……ギアーズ(魔法)だって」


 彼らの周りには複数人の男女が倒れていた。腹や首から血を流していたり、胸や顔面が人形のように焼け焦げていたり。ペレストロイカはそこでできた血だまりをびちゃりびちゃりと踏みながら笑う。よく通るそれは、駐車場のコンクリート壁に反響した。鮮血を踏む度に生まれる真っ赤なたまは、無機質なアスファルトの床を残酷な水玉模様に彩った。


 真打は爆弾や火器、ペレストロイカは刃物の扱いに長けていた。この二人は組織での戦闘分野を担当している。あとはもう一人、銃器を得意とする安名やすな茉莉也まりや。本来はそこに双子も加わるはずだったが、ギアーズとの交戦に敗北した。


 他のメンバーは武器調達や情報収集など、それぞれに合った分野でその能力を発揮している。特に所長の一人娘のギグルは、取り引きにおいて秀でた力があった。今頃高性能のナイフや銃をかき集めているだろう。


葦原ラボの情報も、僕らの存在すらも漏らしちゃいけない……ほんと厄介だよ。でも仕方ない、葦原(僕ら)なんていう日本一には苦労がつきものだからね」


「そのはずだが、なぜか中には気づき始めている連中もいる……奴らとギアーズ、どちらを先に叩くか……どうする」


 真打は白衣をはたき汚れを落とした。その下に着ているバーテン服は、埃一つついていない。


「シンウチ、」ペレストロイカが足を止め高らかに声をあげる。「考え方がチープだよ」


「あ? じゃあどうしろってんだ」


「問題は縦に並べちゃ駄目だよ、横にしなくちゃ。そうすれば、困難は一気に片付く! ――コロブチカを聞きながらでもね」


「……ハァ」


「なんだよ! 昔はそういうゲームもあったんだぞ! ちょ、待って待って!」


 くるりと白衣をひるがえし、真打は駐車場の出口へと向かう。ペレストロイカは黒いブーツの裏を地面に擦り付け、慌ててその後を追った。


「まあ……『一理ある』って言ってやるよ」


 フレームとレンズが八角形の眼鏡を外し、レンズの汚れを拭き取りながら真打が低く呟いた。


「おっ、じゃあ決定だね! ……関係ないんだけどさ、なんで真打っていつもバーテン服を着てるの? 憧れてるの?」


 声を弾ませながら歩くペレストロイカは、人殺しとは無縁のような表情で真打に問うた。こんな彼を、誰が殺人犯と思うだろうか。無論、それがばれたら終わりなのだが。


「別に、深い意味はねーよ」もう一度眼鏡をかけ直した。「お前こそその長いブーツ、変だぞ」


「心外だなあ、返り血が目立たないように真っ黒にしてるのに。……おっと」


 瞬時にナイフを取り出し、真打の白衣の裾を数センチほど裂いた。焦げた白い布を手に取り、ポケットに突っ込む。

 一連の動作が終わった直後、駐車場の出口を通った。街の歩道に足を踏み入れる。そんな彼らを人は気にも留めず歩みを進めた。


「ギアーズと僕たち……“知られてはいけない者”同士が潰しあったら、どっちが先に見つかっちゃうだろうね?」


「知らねえよ。譲る気はない」


「……だね」


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