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やぶれない5

 薄荷色の空は絶望感と共にやってくる。マンホールのように無機質な黒い月がぽっかりと浮かび、砂鉄のような黒い星がぷつぷつと散らばった。

 

 ここまではいつもと同じ。問題はその後、どんな敵がやってくるかなんてわからない。わからないが、いつだってそれは空虚な怪物でしかないのだ。


 三人はコアに意識を集中させ、戦闘衣装に着替えた。コアと同じ色の光が散る。


「足手まとい、か。チェダーの言う通りにはならねーよ、きっと。アハハ」


 先程までゆったりと暇を潰していたパルメザンとカマンベールもいつの間にか戦闘の準備をしていた。……悔しいが、それは認めなければならない。だが、それがどうした。


「……問題はその後だよ。他人を巻き込むなよ、この間みたいに」


 この間、というのは霧と雲の虚を倒したときのことだ。あのときはエメンタールとチェダーがパルメザンとロックフォールの援護をした。危機的状況はなんとか逃れたが、少し間違えば誰かが死んでいたに違いない。……結局ロックフォールは亡くなったが。

 彼女の死については詳しくは知らない。ただの、「自殺」。ギアーズに入ってから、命に対する見方ががらりと変わったような気がする。人は簡単に死ぬし、命は思ったよりずっと軽い。そんな風に考えたチェダーは自分が少し恐ろしくなった。


 本当はゴルゴンゾーラの死も、ロックフォールの死も、深刻に考えねばならないのにチェダーにはそれが出来なかった。

もっと大事な人がいるから、赤の他人はまるで眼中にない。なんて利己的で醜いか、自分でもそれはわかっている。




 がたり。



 真っ黒な満月が、蓋のように横へずれた。その奥は、やはり丸くて黒い。


 しかしそれは、月ではなかった。

 ……穴だ。


 穴が全貌を明かし、蓋の役割をしていた月がそのまま地面に落ちる。空から降ってきた月は虚しく割れた。


 変わらず空に浮かぶ穴から、轟々と音が聞こえる。それはだんだんと大きくなり、音の主は姿を現した。


 ――――水……!


 大きな黒いマンホールから漆黒の濁流が滝のように流れ出た。地面を覆い、なみなみと注がれていく。月の破片が波に攫われ、ザパリと滝に飲まれた。


 水は監視塔をどんどん短くしていく。三人のいる屋上へと近づき、そこからわずか数メートル離れた高さで止んだ。


 真っ黒な海だ。


 生物の一つもそれに入ることを許さないような、漆黒の海洋。足場はこの塔の屋上のみ。

 ふと、風が吹いた。それは屋上に咲いていた、とうに枯れた花の花弁一枚を攫った。薄く茶色い花弁はくるくると舞ったあと、海面に落ちる。そのままじわじわと黒に浸食され、溶けて消えた。


 落ちたらまずい、それが一目でわかった。

 チェダーは固唾を飲み、虚本体を探す。この海が虚である可能性は低い。あのバケモノは鎧を纏う。この空間を水をなって満たすことなど出来るはずがないのだ。だとすると……。


「あれですね」


「!」


 カマンベールが指差した方向を見る。その先には、先程割れた月の蓋。沈んだはずのそれはいつの間にか水面に浮いており、そのまま空中へと浮遊し始めた。


 ばらばらになった欠片を再編成しだす。

 小さな破片たちが意思を持ったように動き、だんだんと黒い怪物の形になる。



 ――海の虚が姿を現した。


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